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低コストの新型フロー電池で、
自然エネルギーの出力変動を吸収する

2013.7.29

従来のレドックスフロー電池に比べて、構造がシンプルなリチウム硫黄フロー電池は低コスト化が期待される。
Credit: SLAC National Accelerator Laboratory

太陽光や風力などの自然再生可能エネルギーを大規模に利用する上で、問題となるのが発電所からの出力変動だ。太陽電池パネルや風車から得られる電力は天候によって変動するため、そのまま送電網に流し込むと電力供給が不安定になってしまう。
変動の影響を減らすためには、蓄電池に余剰電力を充電、必要に応じて放電するという方法がある。発電所で使う蓄電池としてすでに実用化されているものとしては、ナトリウム硫黄(NaS)電池、鉛電池などが代表的だ。そして、さらなる大規模化、低コスト化が期待され各所で実証実験が行われているのが、レドックスフロー電池である。
レドックスフロー電池は、2種類の溶液をポンプで循環して化学反応を起こさせ、放電や充電を行う。理論エネルギー密度は100Wh/kgと他の電池に比べて低く、リチウムイオン電池の数分の1程度だが、溶液のタンクを大きくするだけで大容量化できるというメリットがある。ただ、現在のレドックスフロー電池は、バナジウムなどのレアメタルを利用していること、高価なイオン交換膜が必要なこと、メンテナンス頻度の高さといった欠点があり、実用化するにはコストが課題になっていた。
SLAC(米国立加速器研究所)とスタンフォード大学の研究チームは、従来のレドックスフロー電池よりも構造が単純でコストも低い、新型のフロー電池を開発した。
このフロー電池はイオン交換膜が不要で、循環させる溶液も1種類で済む。材料には比較的安価な硫黄とリチウムを用いており、従来のレドックスフロー電池より大幅に低コスト化できる可能性がある。リチウム硫黄フロー電池は、多硫化リチウムを含む正極電解液と、金属リチウム負極から構成され、多硫化リチウム分子がリチウムイオンを吸収、放出することで、放電、充電を行う仕組みだ。溶液には有機溶媒が使われており、水溶液を使ったフロー電池にあった腐蝕の問題もない。
理論的なエネルギー密度もレドックスフロー電池が約100Wh/kgなのに対して、リチウム硫黄フロー電池は170Wh/kg。実験用に試作された電池は97Wh/kgのエネルギー密度で、2000サイクルの充放電後もエネルギーの貯蔵性能はほとんど劣化しなかったという。

※画像をクリックすると、従来のレドックスフロー電池と新型電池の構造を比較できる。

(文/山路達也)

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