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液体の制御技術が、
有機半導体の性能を飛躍的に向上させる

2013.8.5

研究チームが試作した、フィルム状の有機半導体。
Credit: Y. Diao, B. C-K. Tee, et al.

将来的な発展が期待されている産業分野に、有機エレクトロニクスがある。有機物から構成される有機半導体を使えば、薄くて軽く、折り曲げることも自在な電子機器を作ることが可能になる。
現在の半導体製造プロセスは真空を利用することもあって、大がかりな設備と多くのエネルギーを必要とする。これに対して、有機エレクトロニクスは印刷技術を使えるため、エネルギー消費が少なく、低コストに半導体を製造できる。ただし、現在のところ、有機半導体の性能はまだシリコン系半導体には及ばない。半導体内部での結晶がきれいに整列していないため、電子の動きやすさ(移動度)が低いのだ。
有機半導体の性能を向上させるための取り組みは、さまざまな研究機関が行っている。2011年には産業技術総合研究所の長谷川達生博士らが、インクジェット技術を用いた「ダブルショット法」という有機半導体製造手法を開発している。
2013年6月には、米国のSLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の研究チームが、「FLUENCE」という塗布方式の有機半導体製造手法を発表。これまで、有機材料の溶け込んだインクを基板に塗布する方法では、ムラが起きやすく、前述の通り半導体の結晶構造が不均一になってしまう問題があったが、研究チームは特殊な印刷用ブレード(インクを塗布するための部品)を開発し、この問題を解決した。ブレードに無数に並んだ数十マイクロメートル程度の微細な柱が、インクの流れを均一にするのだ。これによって、単一の結晶構造を持った幅1mm×長さ2cmのフィルム状有機半導体が完成。電子の移動度は従来の有機半導体製造手法の10倍にもなる。研究チームによれば、FLUENCEは高速印刷でもインクの流れを均一にすることができ、大量生産にも対応できるという。

(文/山路達也)

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