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音波を使って、
複数の物体を空中に浮かび上がらせる

2013.9.17

音波による浮遊装置は、化学合成実験などに応用できる可能性がある。

手を触れずに物体を浮かび上がらせるには(もちろんトリック抜きで)、いくつかの方法がある。例えば、風、磁石の反発力、超伝導のピン止め効果、そして意外な方法として音波が挙げられる。
下から音波を発生し、上に置いた板で反射させると、真ん中あたりで音波の圧力のバランスが取れる特殊なノードポイント(結節点)ができ、音波の周波数や強さをうまく調整することで、アリくらいの大きさの物体であれば安定して浮遊させられることは以前から知られていた。しかし、これまでの研究では、ただ物体を浮かせることができるというだけで、実用的な用途がなかった。
2013年7月に、スイス連邦工科大学のDimos Poulikakos博士らが発表した装置は、音波浮揚の実用化において重要なステップになりそうだ。
研究チームが開発した装置は、音波発生器が組み込まれた複数の台で構成されている。音波発生器には、圧電性結晶(電圧に応じて伸縮する物質)が使われており、電圧を調整することで音波をコントロールできる。
先述したように、下から音波を発生させ、上の板で反射させることで真ん中当たりの空間にノードポイントができるわけだが、各台の圧電性結晶をうまく制御するとノードポイントの位置をずらせる。これを使って浮遊している物体を移動させることができるようになったのだ。さらに、この装置では複数の物体を同時に操作することも可能だという。
デモンストレーションでは金属ナトリウムと水滴を浮遊させて衝突させているが、まずはこうした化学反応の実験装置として利用されることになるだろう。将来的には、音波によって浮遊した状態で化学反応をコントロールできるようになれば、材料の汚染防止に利用でき、製薬業界などでニーズがあると研究チームは考えている。

(文/山路達也)

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