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光のオン/オフで、遺伝子の発現をコントロール

2013.9.24

光を使って遺伝子の発現をコントロールする、「光遺伝学」が注目を集めている。

遺伝子工学の中でも、近年急速に注目を集めているのが「光遺伝学」という分野だ。これは光に反応して機能を変化させるタンパク質を用いて、特定の遺伝子の発現をコントロールする技術である。
2013年7月に、MITとBroad Instituteの研究チームが発表した手法は、特定の遺伝子の発現を従来よりもさらに精密に行える。
この手法では、どの遺伝子配列と結合するかをカスタマイズできるTALE(transcription activator-like effector)というタンパク質と、光に反応するCRY2というタンパク質を融合させる。CRY2は光が照射されると形が変化し、CIB1というタンパク質と結合する性質がある。研究チームは、このCIB1の形状を調整して遺伝子の発現をコントロールできる特殊なタンパク質をつくり、CRY2が結合できるようにしたのである。ネズミの神経細胞にこのタンパク質を入れ、細胞に光を照射したところ30分以内にmRNA(DNAからコピーした遺伝情報を担っており、その遺伝情報に従い、タンパク質を合成する伝令RNA)の増加が確認され、光の照射をやめるとやはり30分以内にmRNAが減少し始めたという。
研究チームが開発した手法を用いると、個々の遺伝子の発現だけでなく、「エピジェネティックな情報」のコントロールも可能になると言われている。「エピジェネティックな情報」というのは、DNAの遺伝情報のうちどれを使うべきかを指示する情報のことで、DNAが巻き付いているタンパク質(ヒストン)の変化や、DNAメチル化(DNAに起こる化学反応の1つで、遺伝情報自体は変化しない)といった現象を指し示す。近年は、この「エピジェネティックな情報」が、細胞分化や神経活動に大きく関わると考えられるようになっている。TALEは、ヒストンにも結びついて、エピジェネティックな状態を変化させることも可能だという。
今回の手法によって、脳の学習や、精神疾患、ガン治療など、幅広い分野での研究がさらに進展することになりそうだ。

(文/山路達也)

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