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イオン伝導体のジェルで作られた、
透明スピーカー

2013.10.7

透明なハイドロジェルに電気信号を送ると、振動して音を発する。
Credit: Caroline Perry, SEAS Communications

電子機器は、名前の通り、電子の流れを制御することで電気信号の送受信を行い、情報処理などを行う。だが、電子以外にも信号のやり取りに使えるものがある。それはイオン(電気を帯びた原子)だ。実際、生物の体内では、イオンの流れで電気信号のやり取りが行われている。
ハーバード大学のZhigang Suo博士らの研究チームは、生物体内での電気信号のやり取りにヒントを得て、イオンを利用したデバイスの研究を進めている。
研究チームは、高分子と塩水を混ぜて、固体だが柔軟性の高いハイドロジェルを作成(これがイオン伝導体になる)。2枚のハイドロジェルの薄いシートで絶縁ゴムを挟み、ハイドロジェルのシートをそれぞれ銅製の電極に接続して、透明なスピーカーを作った。
コンピュータ上で音声を再生すると、その電気信号は電極を通じて2枚のハイドロジェル層に伝わる。それぞれのハイドロジェル層の中では、イオンの流れが生まれ、これが中間にある絶縁ゴムを振動させて音声が出る。この透明スピーカーは、人間の可聴領域をすべてカバーしているという。
透明スピーカーは、テレビやパソコン、スマートフォンなどへ応用できそうだ。画面自体にスピーカーの機能を持たせられるため、デバイスの軽量化につながるだろう。また、ハイドロジェルは安価で製造も簡単、5倍の伸縮性という利点がある。しかし、実用化にはまだまだ問題もある。最大の問題は耐久性の低さだ。ジェル中の水分が蒸発すると、デバイスとして使えなくなってしまう。現在、研究チームでは、水分が蒸発しないイオン伝導体の候補材料を探している。

(文/山路達也)

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