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身近な粘着テープが、
エレクトロニクスのブレークスルーを起こす

2013.11.18

原子レイヤーリソグラフィーの模式図。余分な金属を粘着テープを使って取り去ることで、これまでにないナノ構造が可能になった。

身近にあるモノから、画期的なハイテク技術が生まれる。現代でも、こんなことがまま起こる。
例えば、グラフェンの製造だ。グラフェンとは、1原子の厚みしかない炭素原子のシート。グラフェン上を流れる電子は質量を持たない粒子のように振る舞うといった特殊な性質があり、新しいタイプの半導体や透明電極の素材として期待されている。このグラフェンを効率的に作る手法が、黒鉛に粘着テープをつけては剥がすという、何ともローテクなやり方だった。
2013年9月にミネソタ大学の研究チームが発表した、微細構造のパターン生成技術でも粘着テープが活躍する。
研究チームが作成したのは、2種類の異なる金属層を、1ナノメートルの絶縁体で区切った構造である。1ナノメートルというのは、光の波長よりもはるかに小さいのだが、この構造に光を無理矢理通すことで、光の強度を6億倍にも高めることができるのである。しかし、従来の製造手法では1ナノメートル幅のギャップを安定的に作ることができなかった。
研究チームは、通常の半導体製造で使われるフォトリソグラフィの技術を使って、シリコン基板上に、25マイクロメートル幅の金属の格子パターンを作成。この上に、ALD(Atomic Layer Deposition=原子層堆積法)という手法を使って、アルミナ(酸化アルミニウム)の絶縁層をコーティングする(写真[a]参照)。絶縁層の厚みは、原子1層分、約1ナノメートルである。次に、この絶縁膜の上に、今度は別の金属でできた層を真空成膜方法で作成する。すると、最初の金属層と2番目の金属層が、アルミナの絶縁層で隣り合う構造ができるのだが、この状態では、2番目の金属層が余分に乗っかる箇所ができてしまう(写真[b]参照)。そこで、粘着テープの出番だ。文房具としてお馴染みの粘着テープを貼り付けて剥がすだけで、余分な金属を簡単かつ高精度に取り除くことができたのである(写真[c] [d]参照)。研究チームによれば、原子レイヤーリソグラフィーというこの手法は、これまでにない超小型センサーの実現に利用できるという。

(文/山路達也)

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