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カーボンナノチューブでできた超小型スピーカー

2013.12.9

溝を刻んだシリコンウェハーの上に、カーボンナノチューブの撚り糸を整列させてスピーカーを作る。
Credit: Nano Lett.

一般的なスピーカーは、電磁石によって紙などを震わせ、それにより空気を振動させて音を出す。これとはまったく違う、サーモフォンという原理を用いたスピーカーが、中国 清華大学の研究チームによって研究されている。
金属でできた線材や薄膜に電流を流すと、熱が発生し周りの空気を膨張させる。その圧力変化によって音を発生させるというのが、サーモフォンの原理だ。サーモフォンは20世紀初頭にアメリカのAT&T研究所(後のベル研究所)で研究されていたが、小さな音しか出ないため、結局実用化はされなかった。
2008年、清華大学はフィルム状にしたカーボンナノチューブを用いてサーモフォンを開発。しかし、このフィルムには熱がこもり、すぐにオーバーヒートしてしまっていた。
2013年9月に発表された研究では、半導体技術を活用することで、この熱の問題を克服している。研究チームは、フォトリソグラフィー(感光性の物質を露光させることで、パターンを焼き付ける技術)を使って、シリコンウェハーに溝を刻んだ。さらに、そのウェハーから作られたチップにカーボンナノチューブのフィルムをコーティングし、フィルムをレーザーで細くカット。エタノールで処理するとカーボンナノチューブは縮んで撚り糸状になり、溝に直交する形で整列し、それがスピーカーになる。チップ両端の電極に電気を流すと、カーボンナノチューブから熱が発生し、それが音に変わる仕組みだ。糸状にしたことでカーボンナノチューブの間を空気が動きやすくなり、熱を逃がせるようになった。一般的なスピーカーとは音を出す原理が異なるが、同じ周波数帯の音を鳴らすことも可能だ。
このスピーカーの製造には半導体技術を使うため、小型化が容易で、電子回路にも組み込みやすい。なおかつ、カーボンナノチューブ自体は振動しないため劣化が少なく、装置の寿命も長くなるという利点がある。さらに、従来型のスピーカーを使ったヘッドフォンの場合、コイルの振動で生じた圧力を抜くため、装置背面には小さな穴を空ける必要があるが、カーボンナノチューブを使ったスピーカーなら穴は不要で音漏れも少なくなる。
ただし、カーボンナノチューブのスピーカーは従来型スピーカーよりも消費電力が大きくコストも高いという欠点があり、研究チームは実用化に向けてこれらの課題に取り組んでいる。

(文/山路達也)

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