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脳のシナプスを模倣した、
まったく新しい方式のトランジスター

2014.1.20

脳のシナプスの振る舞いにヒントを得た、新方式のトランジスター。
Photo by Eliza Grinnell, SEAS Communications.

現在のコンピュータに使われているCMOS型トランジスターはやがて処理能力やエネルギー効率の限界に突き当たるといわれており、CMOSに代わるまったく新しい方式のトランジスターの研究が世界各国の研究機関や企業で進められている。
そのアプローチの1つが、人間の脳の構造を模倣するというもの。ハーバード大学 SEAS(Harvard School of Engineering and Applied Sciences)の研究チームは、脳のシナプス(神経細胞(ニューロン)同士の接続部)の振る舞いにヒントを得たトランジスターを開発した。
人間の脳では、あるニューロンが興奮すると、シナプスを経由して刺激が別のニューロンに伝わっていく。その刺激を伝える役割を担うのはカルシウムイオンだが、ハーバード大学が開発したトランジスターでは、同様の機能を酸素イオンで実現。このトランジスターはニッケル酸サマリウムという物質でできており、電圧がかかるとニッケル酸サマリウムの結晶格子から酸素イオンが出入りする仕組みになっている。
このシナプス型トランジスターは、従来のトランジスターにはないさまざまな特徴を備えている。1つは、演算が2進法に制限されないこと。従来型トランジスターは電圧の高低で0、1を表現していたため処理は2進法で行われていた。これに対して、シナプス型トランジスターでは、連続的に変化するデータをアナログのまま処理できる。2つ目は、非揮発性であること。電源がオフになっても、状態はそのまま記憶される。また、ニッケル酸サマリウムは強相関酸化物と呼ばれる物質の1つで、わずかな刺激に対しても大きな反応を返すという性質がある。そのため、既存のトランジスターよりもエネルギー効率が高く、消費電力が少なくて済む。
このシナプス型トランジスターはまだ原理実証が行われた段階にすぎないが、近年注目が高まっている強相関酸化物の本格的な応用として、幅広い分野の研究者から注目を集めている。

(文/山路達也)

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