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鉄系の触媒が、薬や香水の製造プロセスを変える

2014.2.3

高価なレアメタルに代わり、潤沢で安価な鉄が製薬などに使われることになるかもしれない。

薬や香水を作るためには、希少で高価なレアメタルが使われている。材料となるアミンやアルコールを効率的に合成するには、化合物に水素原子を付加する「水素化」が必要で、そのためにルテニウムやロジウム、パラジウム、白金などの元素が触媒として必要なのだ。ちなみに、これらの触媒は、自動車の排気ガス浄化装置や燃料電池などにも使われている。埋蔵量が少ないレアメタルを触媒に使うことについては、産業持続性の観点からも懸念する声が上がっており、代替材料が早急に求められているのが現状だ。
トロント大学 Robert Morris博士らの研究チームが開発したのは、レアメタルを使わない触媒を作る技術である。触媒の材料となるのは、地殻中に豊富に存在する鉄。研究チームは、窒素、リン、炭素、水素を含む化合物を鉄と結合させることで、触媒としての反応性を高めた。
この鉄系触媒を使って、研究チームはさまざまな特性を備えたアルコールを従来よりも低コストに合成することに成功した。また、ガン治療薬に使われる材料も、この触媒によるプロセスで合成できるという。鉄はルテニウムに比べて10,000倍も安価な上、資源が枯渇する心配がない。鉄系触媒を使った合成プロセスは、環境負荷が少ないという利点もある。
トロント大学の発表と同時期に、米プリンストン大学や独ロストック大学からも触媒に関する発表が行われた。いずれもレアメタルを使わず、水素化を安価に行うための技術である。製薬などの分野では、これから製造プロセスが大きく転換していくことになりそうだ。

(文/山路達也)

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