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再生プラスチックから真菌感染症の治療薬を作る

2014.2.10

再生プラスチックから作られたナノファイバーは、カンジダ症など真菌感染症の特効薬になるか。

もしかすると、そのうちペットボトルから病気の治療薬が作られるかもしれない。
米カリフォルニアのIBM研究所では、ペットボトルに使われているポリエチレン・テレフタレート(PET)などのプラスチック材料を、真菌感染症の治療薬として使うための研究を進めている。
真菌感染症の例としては、白癬菌(はくせんきん)によって起こる水虫やたむしから、皮膚に炎症を起こすカンジダ症などが挙げられる。特に、エイズやガンの治療中など、体の免疫機能が低下している時に起こりやすく、そのような場合に真菌感染症にかかると命に関わることも少なくない。しかし従来の薬剤では、真菌の細胞膜を突破することが難しかった。
IBMの研究チームは、ペットボトルから再生したプラスチック材料を、新しい分子構造に変換してナノファイバー状にした。このナノファイバーでできた抗菌剤は正の電荷を帯びており、負の電荷を帯びた真菌の細胞壁に取り付いて、破壊する。真菌を数世代培養しても、この抗菌剤への耐性を持つことはなかったという。
カンジダ症を引き起こすカンジダ・アルビカンスを、ナノファイバー抗菌剤とともに培養すると、1時間後には菌の99.9%を除去することができた。さらに、カンジダ・アルビカンスをネズミの角膜に感染させて、ナノファイバー抗菌剤を投与したところ、真菌の成長が抑制され、炎症の症状も軽減した。いずれの実験でも、正常な細胞には影響がなかった。
今後は効果や安全性を確認するために数多くの臨床実験が必要になるだろうが、実用化されればガンやエイズなどを治療中の患者には福音になりそうだ。また、効果の高い水虫治療薬などの開発につながる可能性もあるだろう。

(文/山路達也)

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