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室温で完全導電性を実現する次世代半導体材料

2014.2.17

1原子の厚みしかない、スズのシートが、次世代半導体材料になるかもしれない。
Photo:Yong Xu/Tsinghua University; Greg Stewart/SLAC

世界を大きく変える可能性があると期待されている技術に、超伝導がある。超伝導状態では、抵抗がゼロになるため、損失なく電気を流すことができる。医療診断装置のMRIやリニア中央新幹線では超伝導磁石が使われ、超伝導送電の実験も行われているが、現在のところ超伝導状態を実現するためには液体窒素による冷却が必要なこともあり、その他の分野での応用はそれほど進んでいない。
2013年12月、米スタンフォード大学のShoucheng Zhang教授らの研究チームは、超伝導物質ではないが、室温以上の環境で完全導電性を実現する材料を発見したと発表した。
この材料は「stanene」と名付けられ、スズがベースになっている。1原子の厚さの炭素原子シートをグラフェン(graphene)というが、staneneはスズ(ラテン語でstannum)を1原子分の厚さのシートにしたものである。これは位相絶縁体という物質で、物質の端、もしくは表面だけが電気を流し、内部は絶縁体という不思議な性質を持っている。現在までに、テルル化水銀やビスマスの化合物が位相絶縁体になることがわかっているが、いずれも低温下でしか完全伝導性を実現できなかった。
staneneは室温で完全伝導性を示し、さらにフッ素を加えることで100℃でも完全伝導性を維持できるという(staneneの内部は絶縁体なので、超伝導物質とはいえないとのこと)。
研究チームは、現在複数の研究機関とともに、staneneの特性についての実証実験を進めている。staneneの応用として、まず考えられているのが次世代半導体材料だ。マイクロプロセッサー内部の配線をstaneneにすることで、電気抵抗がゼロになり、電力消費と熱の大幅な低減を期待できる。ただ、半導体製造プロセスは高温環境になるため、この状態でもstaneneが完全伝導性を維持できるのかなど、まだ解決しなければならない課題も多い。

(文/山路達也)

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