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植物の気孔を大きく開かせて、生産量をアップ

2014.2.24

植物の気孔を拡大させることで、生産量を向上させられることがわかった。

長い農業の歴史の中で、人類は自分たちにとって都合が良いように、植物を改良してきた。種子の生産量の多いもの、より大きく育つもの、冷害に強いものなど、さまざまな特性を持つ株を選んで掛け合わせてきたのである。近年では、品種改良をより確実に、よりスピーディに行うため、放射線を使って突然変異の確率を高めたり、遺伝子組換えも行われるようになっている。
植物の品種改良において、特に求められるのは生産量の向上だ。従来は生産量の多い個体の掛け合わせで実現してきたわけだが、名古屋大トランスフォーマティブ生命分子研究所はユニークなアプローチで植物の生産量をアップすることに成功した。
それは、気孔の拡大だ。植物は、表皮にある気孔という小さな穴から二酸化炭素を取り込み、光合成を行って、炭水化物を合成する。実は、気孔に生じる抵抗のために二酸化炭素の取り込み量が制限されており、気孔をもっと開かせることができれば、光合成が盛んになって、生産量が増えると考えられていた。
気孔を開かせる原動力となるのは、細胞膜プロトンポンプというタンパク質。研究チームは、シロイヌナズナ(全ゲノム解読が終了しており、遺伝子操作の分野では実験用に広く使われる)に遺伝子操作を行い、気孔周辺でだけ細胞膜プロトンポンプを増加させた。これにより、気孔の開口が約25%大きくなり、二酸化炭素の吸収量(=光合成量)が15%向上。気孔を拡大した株は、通常の株より生産量が1.4〜1.6倍増加したという。
従来の考え方では、植物の種類に応じて生産量を増やすための品種改良を行う必要があった。しかし、気孔を広げることで生産量を向上できるとなれば、植物の種類を問わず、よりスピーディに品種改良を進められる可能性が高まる。研究チームは、菜種、稲、大豆、トウモロコシなどについても、同様の手法が適用できるか研究中である。食糧やバイオ燃料の増産、また植物を用いた二酸化炭素吸収などへの応用が期待できそうだ。

(文/山路達也)

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