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ナメクジにヒントを得た接着剤で、
心臓を治療する

2014.3.17

ナメクジの粘液にヒントを得た接着剤が、心臓病の患者を救うかもしれない。

生物の備えている機能や構造を真似て、新しい技術を生み出そうという考え方は、科学研究の分野で広まっている。例えば、コオロギの腹に生えている毛の構造を応用した好感度の画像センサー、トンボの羽を模倣したドローン(小型の飛行機器)、ガの目を模倣した無反射フィルムなど、生物の体はアイデアの宝庫と言える。
ボストン小児病院とMITの研究チームが模倣したのは、ナメクジだ。
現在、心臓の外科手術では、針やステープルを使って縫合が行われているが、こうした手法は心臓の組織にダメージを与えてしまう。治療用の接着剤も存在するが、これらは皮膚の傷に用いるもので、また毒性があるため内臓には使えない。心臓のようにぬるりとして脈打つ臓器に使える接着剤はこれまで存在していなかったのである。
研究チームは、ぬるりとしたものの表面に張り付けるということで、ナメクジに着目した。ナメクジは非常に粘着性の高い粘液を分泌しており、水に濡れた岩などにも張り付いて、自在に移動することができる。
この粘液の構造を模倣して研究チームが開発したのが、HLAA(Hydrophobic Light-Activated Adhesive:疎水性光活性接着剤)だ。HLAAは強い粘着性があり、水や血液への耐性もある。また、Light-Activatedというように、紫外線を当てると数秒で乾くという性質も備えている。さらに、生分解性の材料でできており、生物には無害である。
研究チームは、人間の心臓と似た構造を持つ、生きたブタの心臓を使ってHLAAのテストを行った。実験に使われたブタの心臓には穴が空いており、HLAAでコーティングした絆創膏を貼って紫外線を照射したところ5秒以内に穴を塞ぐことができた。術後24時間に渡って観察を続けたところ、絆創膏は患部に貼り付いていることが確認された。
実用化のためには、さらに長時間の耐久性や人体への安全性についてテストする必要があるが、特に乳幼児などの心臓手術への利用が期待されている。研究チームによれば、腸など心臓以外の臓器についてもHLAAを用いることができるという。

(文/山路達也)

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