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虐待か事故かを明らかにする、
児童虐待の研究用ダミー

2014.6.2

児童虐待の徴候を明らかにするために、圧力検知センサーを搭載した実験用ダミーが開発されている。
Credit: R Dsouza and G Bertocci -Injury Risk Assessment and Prevention Labora-tory, Department of Bioengineering, University of Louisville

国内外で、児童虐待の問題が深刻になっている。厚生労働省によれば、児童相談所が受ける虐待の相談は統計を取り始めてから毎年増加しており、2012年度には66,701件に上った。これは1999年度の5.7倍に当たるという。また、児童虐待によって子供が死亡した件数も、毎年 50〜70件の高い水準が続く。アメリカの保険福祉省も、毎年1700人以上の子供が虐待で死亡し、15万人が障害者になっていると報告している。
虐待死を防ぐには、虐待が行われているかどうかを早期に察知する必要がある。しかし、子供の体にあざがあっても、それが虐待によるものか、事故によるものかを判別するのは難しい。
アメリカのルイビル大学では、虐待か事故かの判別をより正確に行えるように、研究用のダミー(実験用のモデル人形)を開発した。
ベースとしたのは、生後1〜2歳児の衝撃試験用ダミーである。この年齢の乳幼児は自由に動き回れないため、特に虐待の対象になりやすい。研究チームは、ダミーの頭部、胴体の前後、前腕、上腕、腿、脛の計7箇所に、圧力検知センサーを配置。ダミー全体と各センサーは、ダイビングスーツなどに使われる柔らかいネオプレン素材で覆われている。センサーに衝撃が加わると、部位や衝撃の強さ、衝撃が加えられた頻度などの情報が記録され、コンピュータ上の3Dモデルに表示される。
自動車事故などの場合に子供の体にどのように衝撃が加わるかを調べる装置はこれまでにもあったが、虐待について研究するための装置はなかった。研究チームでは、事故や虐待の状況を再現した実験を行い、ケガの部位や頻度などのナレッジベースを作成していく予定である。ナレッジベースを充実させることで、児童虐待の容疑者の供述と客観的なケガの状態を比較するといった使い方も想定されている。

(文/山路達也)

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