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自己修復能力を備える培養筋肉

2014.6.16

マウスに移植された培養筋肉の繊維に、マウス本来の血管が入り込んで成長していく様子が確認された。

iPS細胞に代表される再生医療技術は急速に進歩しているが、細胞レベルでは培養ができても、それを複雑な組織や器官を作るまで進化する技術はまだまだ未発達だ。
デューク大学の研究は、再生医療の進歩の上で重要なマイルストーンになるかもしれない。研究チームは世界で初めて、骨格筋の細胞から自己修復機能を備えた筋肉組織を培養することに成功。マウスに移植した培養筋肉は、マウス本来の筋肉と一体化することが確認された。
研究チームによると、成功した理由は2つ。1つ目は筋繊維を十分に成長させたこと。2つ目はサテライト細胞とも呼ばれる筋幹細胞のプールを作ったことだという。生物の筋肉内にあるサテライト細胞は筋肉がダメージを受けると活性化し、筋肉の再生プロセスを開始するが、筋肉の発達が不十分だったり、サテライト細胞自体が少ないとこうした再生プロセスがうまく働かない。研究チームがヘビ毒を使って培養筋肉にダメージを与えたところ、サテライト細胞が活性化し筋繊維を修復する様子が見られた。
今回の研究では、移植した筋肉組織を観察する手法もユニークだ。研究チームは、マウスの背中に小さな隙間を作って、培養筋肉を挿入。この隙間をガラスパネルで覆って、外部から経過を観察できるようにしたのである。培養筋肉はマウス体内の組織と結びつくと蛍光を発するように遺伝子操作されており、移植してから2週間の間、蛍光が強くなっていくのが観察された。マウス体内の血管が、(本来の筋肉と同じように)移植した培養筋肉にも入り込んで成長する様子が確認できたという。
今後研究チームは、培養筋肉が実際に傷ついた筋肉の修復や病気の治療に使えるかどうかを検証していく予定だ。

(文/山路達也)

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