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低コストに製造できる、
新たな水素貯蔵物質が開発される

2014.6.23

カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが開発した、水素吸着材の電子顕微鏡写真。
Credit: Jacobs School of Engineering/UC San Diego

水素は理想的なエネルギー媒体と言われている。水素と空気中の酸素を反応させる燃料電池を使えば、効率よく電気を取り出すことができ、しかも生成されるのはH₂O、つまり水なので環境負荷が極めて低い。しかし、反応性が高く、爆発の危険性がある水素には、貯蔵と運搬という大きな課題がある。気体の状態だと大容量のタンクが必要だし、液化するには-253℃まで冷却しなければならないため大量のエネルギーが必要になるのだ。気体の水素を高圧で圧縮することも可能だが、圧縮にもエネルギーが必要になり、危険度も高くなる。
そのため、水素を別の物質に変換したり吸着させて、運搬や貯蔵を行う技術の開発が進められている。
2013年に話題を呼んだのは、千代田化工建設の技術だ。水素とトルエンを反応させて、メチルシクロヘキサンという常温常圧の液体を生成。これにより気体の水素に比べて体積を500分の1に減らせる。ポイントは、同社が独自開発した触媒により、低コストに水素を取り出せることにある。現在、同社では実証実験を行っており、数年以内の実用化を目指している。
アンモニア(窒素と水素からなる)を水素の運搬・貯蔵に使うというアイデアもある。現在のところ、アンモニアの合成は高温高圧環境で行うため多くのエネルギーを必要とするが、東京大学の西林仁昭教授らの研究チームは常温常圧でアンモニアを合成する手法を研究中だ。
水素を吸着させる材料も開発が盛んな分野である。水素吸着材は、比較的低い圧力をかけて水素を吸着させ、廃熱を与えて水素を放出させるというもの。2014年4月にカリフォルニア大学サンディエゴ校は、六ホウ化カルシウム、ストロンチウム、六ホウ化バリウムでできたセラミックの水素吸着剤を開発した。この材料の特徴は、製造コストが低い(と期待される)こと。研究チームは、ホウ素、金属硝酸塩、それに尿素などの有機燃料を炉に入れて、このセラミック材を400℃程度に熱した。これは燃焼合成法といい、発熱反応が連鎖的に進むため、比較的低温で水素を吸着できるという利点がある。まだ実証研究の段階ではあるが、低コストの吸着材と、燃焼合成法による高い吸着率を両立できれば、水素貯蔵のブレークスルーになるかもしれない。

(文/山路達也)

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