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AR技術で、内視鏡手術の鉗子を透明に

2014.6.30

もう1台のカメラからの映像を投影することで、鉗子が透明になったような効果が得られる。
Credit: 早稲田大学理工学術院藤江正克教授、小林洋研究院准教授

コンピュータが生成した映像を現実世界に重ねて表示する、AR(拡張現実)技術の実用化が着々と進んでいる。中でも期待されているのが医療、特に手術を支援するためのARだ。
2013年9月に、ドイツのFraunhofer MEVIS研究所が発表したのは、iPadを使った手術用のARアプリ。iPadのカメラを手術部位に向けると、デジタルで生成された血管の画像が実際の部位に重ね合わせて表示される。傷つけてはならない血管の位置を確認しながら、手術を行うことができる。ただしFraunhofer MEVISのアプリの場合、iPadを他の人が支えている必要がある。
スタンフォード大学の研究者とDroiders社が共同で開発したのは、Google Glassで外科手術をシミュレーションできるARアプリ「MedicAR」だ。目印となるARマーカーを手術部位に付けてGoogle Glassで見ると、手術手順や体内の構造がどう見えるかなどを確認できる。MedicARはあくまで医学生用のシミュレーションアプリだが、今後は実際の手術を支援するGoogle Glassアプリが登場してくることは確実だろう。
2014年4月に発表された、早稲田大学と九州大学による手術支援技術は、先述の2件とは異なるアプローチでARを利用している。同研究チームが目的としたのは、内視鏡手術での死角をなくすこと。内視鏡手術では、手術部位を押さえる鉗子が邪魔になって手元が見えづらいという問題があった。
これを解決するため、研究チームは、内視鏡カメラとは別のカメラをもう1台挿入し、鉗子の下側から手術部位を撮影。下側のカメラからの映像を上側の内視鏡カメラから撮影したように補正し、鉗子に投影するというシステムを開発した。こうすることで、鉗子自体が透明になったような効果が得られ、医師は隠れていた手術部位が見えるようになる。このシステムでは、既存の内視鏡や器具をそのまま利用できることもメリットだ。早稲田大学は、パートナー企業を見つけ、早期の実用化を目指すという。

(文/山路達也)

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