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角砂糖サイズの人工肺が、動物実験を不要にする

2014.8.4

肺ガン細胞から作成した人工肺を使うことで、治療法の開発がスピードアップする。

肺ガンはガンの中でも特に死亡率が高く、また転移の危険性が高いことが知られている。肺ガン治療では化学療法が使われることが多いが、治療の効果を予測することは非常に難しい。現在のところ、新薬を開発するための最良の方法は動物実験だが、動物実験で効果があった薬剤のうち、4分の3は人間を対象にした実験では効果がないと言われている。また、患者によっても薬剤への反応は異なってくる。
フラウンホーファー研究機構IGBのHeike Walles博士らは、治療法開発をスピードアップするために、人工肺の研究を行っている。
この人工肺は、人間の肺をミニチュアサイズで再現したもの。肺ガンの患者からガン細胞を取りだして培養し、体内と同じように空気や栄養分を送り込めるようになっている。呼吸の速度など、さまざまな要素を自由に調整することも可能だ。研究チームによれば、実際の臨床試験で患者の免疫力を高める効果があった治療法を人工肺に適用したところ、同じ効果が得られたという。また、人工肺の開発と並行して、ヴュルツブルク大学の研究チームが治療効果のコンピュータシミュレーションに取り組んでいる。シミュレーションの結果と人工肺での実験を比較することで、効率的な研究が可能になる。
将来的には、個々の患者からガン細胞を採取して人工肺を作成し、より効果的な治療を行えるようにすることも検討されている。
人工肺の用途は、治療法のテストだけではない。先述したように、肺ガンは転移の危険性が高いが、転移が起こる仕組みについてはまだよくわかっていないことが多い。動物実験や平面的に培養された細胞では、転移の再現が難しいのである。人工肺を使って体内の状況を正確に再現できれば、転移の仕組みも明らかにできると期待されている。

(文/山路達也)

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