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レーザーを使って、
空気中に高速の光通信ケーブルを作り出す

2014.9.22

ガラスやプラスチックの代わりに「空気」でできたケーブルが実現できるかもしれない。

光ファイバーを使った通信は、私たちの生活になくてはならないものになっている。空気中で光通信を行う場合、指向性の強いレーザーであっても散乱してしまい、距離が広がるにつれ信号の減衰が激しくなるからだ。極細の光ファイバーをつかって、その内部をレーザーが反射しながら通ることで、空気や電磁気の影響を受けずにデータを高速でやり取りすることが可能になる。光ファイバーの素材としてはプラスチックやガラスが用いられるが、メリーランド大学のHoward Milchberg博士らが考案したのは、なんと「空気」で光ファイバーを作ってしまおうというアイデアだ。
研究チームは、強力なレーザーパルスを空気中で発信するとフィラメントという細いビームができること、このフィラメントによって周辺の空気が暖められ、低密度の「穴」ができることを発見した。そして、フィラメントのかたちを正方形にすることで、周りとは密度の異なる空気の穴に囲まれた「筒」ができるのだ。この筒の中により強力なビームを放つと、ビームが筒の中を(光ファイバーのように)拡散せずに進んでいくことが確認された。1メートルの距離で実験したところ、信号の減衰はほとんどなく、筒がない場合に比べて信号の強度は1.5倍になったという。1メートルは短いと思われるだろうが、さらに距離が伸びてもほとんど信号は減衰しないと考えられる。空気の筒が持続する時間はわずか数ミリ秒だが、レーザー通信では数ミリ秒あれば膨大な量のデータを転送することが可能だ。
こうした空気の筒を使った長距離通信が実現すれば、これまで光ファイバーを敷くことができなかった場所でも大量のデータを送受信できるようになる。研究チームは、遠距離レーザー通信のほか、大気汚染の計測や、高解像度地図の作成などへの応用を検討している。

(文/山路達也)

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