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ハエにヒントを得た、超高感度聴覚システム

2014.10.6

中央アメリカに生息するハエ、Ormia ochraceaの耳にヒントを得た超高感度センサーが開発された。
Photo by Jpaur

人間を含む哺乳類は、鋭敏な聴覚を持っている。左右の耳に到達する音波の時間差を利用して、音源の正確な位置を突き止めることができるのだ。一方、サイズの小さな昆虫では、左右の耳に届く音波の時間差は数百万分の1秒程度。これでは音波の時間差を利用して音源を特定することができない。多くの昆虫が捕食や飛行を行う際には、聴覚よりも視覚や嗅覚を利用している。
ただし、昆虫にも例外がある。アメリカ合衆国の南東部や中央アメリカに生息するハエの一種、Ormia ochraceaは哺乳類と同じように鋭敏な聴覚を持つことで知られている。メスのOrmia ochraceaは、オスのコオロギが鳴いているのを探知し、コオロギの背中に幼虫を生み付ける。コオロギの体内に潜り込んだ幼虫は、コオロギを内部から食い荒らすのだ。
Ormia ochraceaの耳は前胸にあり、特殊な構造をしている。左右の耳は内部で直結しており、片方が振動すると、反対側には180度の位相差で震動が伝わる。音が小さくても、位相差が増幅されることで、音源の方向を正確に探知できるようになっている。
2013年、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のRonald Miles博士らは、Ormia ochraceaの耳にヒントを得たマイクロフォンを開発。光学センサーを使って振動膜のモーションを制御し、Ormia ochraceaの耳と同じように振動の位相差が生じるようにした。
2014年7月、テキサス大学オースティン校のNeal Hall博士らは、Ronald Miles博士の先行研究を元に、振動を電圧に変換するピエゾ素子を使った試作デバイスを開発した。ピエゾ素子を用いることで、電力をほとんど消費しない、超高感度の聴覚センサーを実現できた。Neal Hall博士の開発したデバイスの幅は、わずか2ミリメートル。高性能補聴器のほか、軍事目的への応用も検討されている。

(文/山路達也)

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