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波をコントロールして、モノを引き寄せる

2014.10.20

ピストンが起こす波を制御することで、ピンポン球を引き寄せることができた。
Credit: Stuart Hay, ANU

遠く離れた物体にビームを照射すると、直接触れることなく引き寄せることができる。SFにおいて、トラクタービームは定番の小道具だ。
ナノスケールの世界であれば、トラクタービームはすでに実用化され、使われるようになっている。光ピンセットという技術は、レーザーを使ってタンパク質分子などの微粒子を1個ずつ操作するというもの。そのほか、光を使ったトラクタービームとしては、NASAが2011年から10万ドルの予算で研究を始めているが、まだ理論検証の段階だ。
2014年5月には、スコットランド ダンディー大学のChristine Démoré博士、Patrick Dah博士が音波を使ったトラクタービームの手法を発表。水を満たした水槽に、超音波の発生装置を入れ、波形をコントロールすることで1センチメートル程度の物体を引き寄せることに成功した。
2014年8月に、オーストラリア国立大学のMichael Shats教授らのグループが発表したトラクタービームは、さらにシンプルで応用範囲が広そうだ。研究チームは水槽の上にピンポン球を浮かべ、ピストンを使ったシンプルな装置で波を発生させた。波のサイズと周波数を細かく制御することで、ピンポン球を引き寄せることができた。粒子追跡装置によって解析したところ、波によって水面に特定の流れのパターンが生まれていることが確認された。
Michael Shats教授によれば、複雑な3次元形状の波がある一定の高さを超えると、水面に流れのパターンが発生し、この流れは内向き、外向き、渦巻きのいずれにもなりうるという。ただ、現在のところ、流れのパターンを説明する数学的な理論はまだ存在していない。
この技術の応用としては、原油流出事故への対応、水上を浮遊している物体の回収といった用途が検討されている。

(文/山路達也)

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