Science News

これからのコンピューターは、
ちょっと間違えてもいい?

2014.12.1

コンピューターがある程度「間違え」てもいいようにすることで、大幅に消費電力を下げられる。
Image:KristerBlomberg

世界の情報化が進むにつれ、コンピューターが消費するエネルギーは増大の一途を辿ってきた。例えば日本国内のデータセンターの消費電力は日本全体の1%を超えており、今後データ通信量が爆発的に増えてくれば、2025年には国内全体の2割に達するという経済産業省の予測もある。
消費電力を抑えるため、IT分野ではさまざまな取り組みが進められている。コンピューターに搭載される記憶装置はハードディスクからフラッシュメモリへの移行が進んでいるし、CPUの高性能化も低消費電力が中心だ。これまでのシリコン製チップに代わる、カーボンナノチューブなどの超低消費電力CPUの開発も進んでいる。
MIT CSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)の研究チームが発表したのは、まったく別のアプローチによって低消費電力化を実現する手法だ。その手法とは、いわば「コンピューターの間違いを許す」こと。
正確さはコンピューターの代名詞だが、用途によってはそれほど正確でなくてもよいことはある。その一例が画像処理だ。動画に含まれるピクセル(画素)が幾つかおかしな色になっていたところで、視聴者はまったく気づかない。
研究チームが今回新たに開発したChiselは、複雑な計算によってエネルギー消費が多くなりそうな箇所の候補を自動的に見つけることができるシステム。プログラマーは出力結果のシミュレーションを見ながら、どれくらいまで画像処理の精度を落とすことを許容するかを決定。指定された箇所は、精度が低い低消費電力のハードウェアで処理が行われる。このChiselによって最適化を行うことで、9〜19%消費電力が抑えられたという。
コンピューターの世界では、これまでにもある程度の「いい加減さ」を許容することで、イノベーションを起こしてきた。代表的な例が、JPEGの画像データやMP3の音声データで使われている非可逆圧縮技術だ。人間の眼や耳では知覚できない部分をばっさり切り捨てることで、高速のデータ処理が可能になったのである。計算精度を落として消費電力を下げるChiselも、さらなるイノベーションの端緒となるかもしれない。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.