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騒音性難聴に、遺伝子治療の光明

2014.12.22

タンパク質NT3が、騒音や加齢による難聴を治療するカギになる。

騒音は、内耳にある蝸牛(カタツムリのような形をした聴覚器官)にダメージを与える。長期にわたって騒音にさらされると騒音性難聴になり、しかも蝸牛の中にある有毛細胞は新陳代謝しないため障害が一生残ってしまうこともある。
騒音性難聴の治療法で近年注目を集めているのが、標的遺伝子療法である。
ミシガン大学Gabriel Corfas博士らは、マウスを使った実験で、騒音や加齢による難聴を治療できる可能性を示した
蝸牛の有毛細胞と神経細胞の間は、リボンシナプスという構造でつながっている。通常は、リボンシナプスによって普通のシナプスよりも光や音の信号をすばやく伝えることができるのだが、騒音性難聴の場合、騒音によってこのリボンシナプスの働きが落ちて難聴になってしまうのだ。
従来、難聴の治療では有毛細胞が注目されてきたが、ミシガン大学の研究チームが注目したのは支持細胞である。支持細胞は有毛細胞の周囲にある細胞で、有毛細胞を支える土台になっている。特別な役割はないと考えられていた支持細胞だが、ここから放出されるNT3というタンパク質がリボンシナプスの働きに大きく影響することがわかってきた。
そこで研究チームは、乳ガンの治療に使われるタモキシフェンという薬剤を、人為的に難聴にしたマウスの内耳にある支持細胞に投与。タモキシフェンによって、支持細胞にあるNT3を作る遺伝子が活性化され、NT3の生産が促進された。さらに、NT3を活発に作るようになったマウスと、そうでないマウスでは、聴力の回復に大きな差が見られた。
Corfas博士らのチームは、次の段階として人間でも同様の治療が可能かどうか検討を進めている。
脇役と考えられていた支持細胞が大きな役割を果たしていることが明らかになったことで、感覚器官の研究がさらに進むことも期待される。

(文/山路達也)

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