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皮膚に押し当てるだけ、
痛みのない「針なし注射器」

2015.2.23

芝浦工業大学 山西陽子准教授が開発した「針なし注射器」。内部には、電圧を掛けて気泡を発生させるバブルメスが入っており、気泡が左側から射出される。

古くから使われていて、あまり進化していない(ように見える)道具に注射器がある。かつて、岡野工業とテルモは、独自技術によって針先を極限まで細くした「痛くない注射針」を開発したが、針を皮膚に刺して、薬液を体内に流し込むという仕組み自体は変わっておらず、針への恐怖心を持った患者への対応や、医療関係者の針刺し事故を根本的には解決することはできなかった。
2014年12月、芝浦工業大学 山西陽子准教授が開発に成功した「針なし注射器」は、こうした問題を解決するイノベーションになりそうだ。この注射器は直接皮膚に押し当てるだけで、痛みを伴わずに試薬や遺伝子を目的の場所へ送り届けることができる。
実は、針なし注射器自体は新しい発明ではない。バネや空気の力を使って薬剤を高圧で発射して筋肉に投与する注射器はこれまでにも存在したが、神経を傷つける恐れやある程度の痛みは避けられなかった。ちなみに、現在では日本や米国で針なし注射器はほとんど使われていない(2014年8月に、特定のインフルエンザワクチン接種用の米ファーマジェット社製針なし注射器が、米国で承認されている)。
山西准教授の開発した針なし注射器は、マイクロレベル(1/1000mm)の気泡を使う。注射器内で、電圧をかけたバブルメスを液体に接触させると、気泡が連続的に生じる。薬剤をまとった気泡が対象物(皮膚など)に穴を開けて、入り込むという仕組みだ。
気泡が開ける穴は、4μm(1μm=1/1000mm)と小さいため、細胞に与えるダメージは少ない。また、狭い流路から気泡を射出するため、狙った箇所へ高精度に薬剤を送り込むことが可能だ。
硬い細胞壁を持つ植物細胞を始め、あらゆる固さの細胞への遺伝子導入・治療など幅広い用途にこの針なし注射器は活用できるという。

(文/山路達也)

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