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ナノワイヤーの衣服で、
世界のエネルギー消費を抑える

2015.3.13

銀のナノワイヤーでできた生地は、人体が放出する熱を反射して外に逃がさない。また図に示すように、生地に電源を接続することで、生地自体を発熱させることもできる。Photo by American Chemical Society

防寒肌着の進歩は著しい。多くのメーカーから販売されている防寒肌着は、体から出る湿気を吸って発熱、同時に毛細管現象を利用して水分を生地表面に移動させて、効率よく乾かす仕組みだ。防寒肌着を使うようになって、暖房器具の設定温度を下げるようになったと言う人もいることだろう。
肌着に見られるように、建物全体だけでなく個人単位のエネルギーマネジメントを行うことで、世界のエネルギー消費を大幅に抑制できる可能性も見えてきている。
スタンフォード大学のYi Cui博士によれば、世界のエネルギーの47%は屋内暖房に使われ、そのうち42%は住居用だという。Yi Cui博士らの研究チームは、金属のナノワイヤーを使った生地を開発、これを衣服に使うことで暖房のエネルギー消費を抑えようとしている。
研究チームが開発したのは、銀のナノワイヤーでできたメッシュ繊維だ。人体の熱は赤外線として放出されるが、その波長はおおむね9μm程度。一方、ナノワイヤーの間隔は200〜300nmと赤外線の波長よりも小さいため、熱が逃げない。一般的な生地が反射する赤外線は1.3%なのに対し、銀ナノワイヤーの生地では40%以上の反射率を示した。銀ナノワイヤー生地は通気性も高く、柔軟で、一般的な生地の上にコーティングすることも可能である。さらに、銀ナノワイヤー生地は導電性が高く、電源を接続すれば熱を発生させることもできる。Yi Cui博士の試算では、銀ナノワイヤー生地の衣服を使うことで、1年間に1人当たり1000kW/h分のエネルギーを節約できるという。これは、米国の平均的な世帯が1か月に消費する電力に相当する。
これまでのエネルギーマネジメントは建物や家電が中心だったが、今後はパーソナルなエネルギーマネジメントにも注目が集まることになりそうだ。

(文/山路達也)

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