Science News

3Dプリンターで出力したガイドを使って、
損傷を受けた神経を回復

2015.4.27

3Dプリンターで出力された人工神経ガイド管。長さ5mm×直径1.5mmで、壁の厚みは250μmである。

3Dプリンターの有望分野の1つが医療だ。補聴器やインプラントなど、個別の患者のニーズ、患部の形状に応じたモノを完全なオーダーメイドで作成できる。
例えば、複雑な形状をした膝関節の一部を、3Dプリンターの人工関節で補う。骨肉腫の手術などで頭蓋骨の一部を除去した場合、チタン製の人工頭蓋を3Dプリンターで作成して患部に埋め込む。あるいは、MRIやCTのデータを元に臓器模型を作って、手術前のシミュレーションを行う。そうした手法が一般的に使われるようになってきた。
3Dプリンターの出力精度は年々向上しており、適用範囲も拡大している。シェフィールド大学 John Haycock教授らの研究チームは、3Dプリンターを用いて損傷した神経を修復する手法を開発した
現在、損傷した神経を修復するには、外科手術で神経を縫合、接合する手法が一般的だが、必ずしも神経が元通りにつながるとは限らない。また、NGC(Nerve Guidance Conduit:人工神経ガイド管)という細いチューブを使って、断裂した神経の両端をつなぐ手法もある。短い距離であれば、神経自体の再生能力によって軸索が伸び、自然に神経組織が再生されるが、NGCが使える患部はごく限られていた。
シェフィールド大学の研究チームは、コンピュータ上のモデリングソフトを使って、NGCをデザイン。レーザー照射方式の3Dプリンターを使って、ポリエチレングリコールという素材を硬化させ、NGCを作成した。神経を断裂させたマウスに作成したNGCを埋め込み経過を観察したところ、3mm幅の断裂があった神経が21日間でつながることが確認された。研究チームは、人間の患者を対象にした臨床試験も行う計画だ。また、将来的には生分解性の材質を用いたNGCや、より大きな断裂をつなぐNGCについても、研究を進めている。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.