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心疾患製薬研究のための「ハート・オン・チップ」

2015.5.11

人間の心臓を再現した「ハート・オン・チップ」で薬剤の影響を検証する。Photo by Anurag Mathur, Healy Lab

心疾患の新薬を開発するためには、平均で50億ドルものコストがかかると言われている。研究開発フェーズにおけるコストや時間を大幅にカットする手法を、製薬会社や研究機関は喉から手が出るほど欲しているのだ。
現在行われている新薬開発では、薬剤が心臓に悪影響を与えないかをまず動物実験によって検証していく。しかし、種の異なる動物では薬剤に対する反応も異なることが多く、動物実験で有効な結果が出ても、人間では効果が出ないということが少なくない。動物実験なしで薬剤の効果をある程度検証できれば、新薬開発は格段に効率的に進められることになる。
このような要望に応えられる可能性を持ったデバイスが、カリフォルニア大学バークレー校で開発されている「ハート・オン・チップ」だ。これは1インチ程度の長さのデバイスで、人間の心臓組織を模した構造になっている。人間のiPS細胞から分化させた心筋細胞をハート・オン・チップに注入すると、細胞はチップ内の層に整列して収まる。
細胞が配置された領域の隣は液体が流れるようになっており、これが血管に代わって細胞に栄養や薬剤の成分を届ける仕組みだ。培養皿の上に心筋細胞をただ配置するのとは違って、常に血液が流れている状態を作り、できるだけ人間の心臓組織に近い環境を再現しているのである。心疾患の治療に使われている4種類の薬剤をハート・オン・チップに注入したところ、脈拍などが事前に予想された通りに変化することが確認された。チップ内の心筋細胞は、数週間程度は機能するという。
研究チームでは、複数の臓器にまたがる反応を検証できるチップについても研究を進めている。これが実現できれば、心疾患には効果があるが、肝臓に悪影響を与えるといったことも検証できるようになる。

(文/山路達也)

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