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「折り紙」がナノテクノロジーを進化させる

2015.5.25

伝統的な折り紙のねじれ折りが、マイクロサイズのロボットに使われるようになるかもしれない。 Photo by Jesse Silverberg/Cohen Lab

日本の折り紙は、海外でも人気が高い。遊びや芸術としてだけでなく、近年は科学分野でも応用されるようになってきた。中でも有名なのが「ミウラ折り」だろう。三浦公亮博士によって考案されたミウラ折りは、対角線を押したり引いたりするだけで大きなシートを簡単に展開・収納でき、人工衛星のパネルなどで実際に活用されている。
人工衛星のように大きなモノだけでなく、目には見えないナノテクの分野でも、折り紙は注目を集めるようになっている。コーネル大学Jesse Silverberg博士らの研究チームが進めているのは、折り紙を応用した新素材やマイクロマシンだ。ちなみに、Jesse Silverberg博士は2nd Grade(日本の小学2年生に相当)以来の折り紙マニアだという。
2014年に研究チームが発表したのは、先述のミウラ折りを使った、あとから性質を変えられるメタマテリアルの構造だ。メタマテリアルというのは、人工的な微細構造を作ることで自然界にはない性質を持たせた材料を指す。通常、メタマテリアルの構造は製造時点で固定されている。
ミウラ折りは同じパターンがきちんと連なっていないと展開・収納ができないわけだが、研究チームはこれを逆手にとった。ミウラ折りからなるメタマテリアルの微細構造の中に、イレギュラーなパターンを入れたのだ。そうすることでミウラ折りはきちんと折りたためなくなるわけだが、それによってメタマテリアルの性質を変えられることを数理的なシミュレーションで示した。完全なミウラ折りからなるメタマテリアルは、特定の方向から力を加えるとぺしゃんと潰れるが、一部イレギュラーなパターンが入ると潰れにくくなる。イレギュラーなパターンの入れ方次第で、潰れにくさは変化する。普段はくしゃくしゃに折りたためるが、必要な時に展開して構造の一部を何らかの手段で変化させると頑丈になる、そういう素材が作れる可能性があるのだ。
さらに2015年3月、同研究チームは「ねじり折り」を使ったメカニカルスイッチを発表した。ねじり折りは畳まれた状態と展開された状態が、明確に異なるため、スイッチとして使えるのである。研究チームはジェル状の高分子材料を使ってねじり折りのパターンを作成。サイズや素材にかかわらず、ねじり折りを使ったスイッチが作れることを示した。
将来的には、医療用のステント(血管を拡張するための医療器具)や、顕微鏡サイズのロボットなどにこうした折り紙の原理が活かされることになりそうだ。

(文/山路達也)

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