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従来の数十倍にスピードアップ。
光造形を中心に展開する3Dプリンター事情

2015.6.29

従来の数十倍のスピードで3Dモデルを生成できる、Carbon3D。

3Dプリンターの進化と普及は着実に進んでいる。
産業部門についていえば、レーザーや電子線を使用した金属粉末焼結方式の3Dプリンターが工場で使われ始めている。GE傘下の航空宇宙部品メーカーAvioAero社のように、3Dプリンターを前提にして、設計開発プロセスを見直し、粉末材料を自社生産する企業も現れた。また、樹脂や金属材料を噴射する材料噴射法や、結合材料を噴射して材料を固める結合材噴射法の3Dプリンターは、歯の矯正具を始めとしたヘルスケアや、工業製品で使われている。
一方、パーソナル向けの3Dプリンターについても、大きな変化が起こっている。2013年に3Dプリンターが注目された時には、樹脂を押し出してモデルを生成する低価格のFDM方式が中心だった。しかし、FDMは出力速度が遅く、精度も低いという欠点がある。FDMに代わって、パーソナル分野で脚光を浴びるようになったのが、光造形や液槽光重合法(えきそうひかりじゅうごうほう)と言われる方式の製品だ。2014年末以降、3Dプリンターメーカーは、数十万円程度で高精度な小型3Dプリンターを相次いで発表している。
2015年3月に、3Dプリンター市場に衝撃を与えたのが、Carbon3D社によるCLIP技術を採用した製品だ。従来の光造形方式では、液体状の樹脂に光を照射して硬化させ、それを1層ずつ積み重ねてモデルを作っていく。ところが、Carbon3Dでは1層ごとに積み重ねるプロセスが省かれ、プールに入った液体状の樹脂まるごとに紫外線を照射する。そのため、従来の光造形方式に比べて精度が高く、表面は極めて滑らかな仕上がりになる。さらに、成形のスピードについても(従来の光造形方式に比べて)数十倍〜100倍程度と、圧倒的な高速化を実現している。成形の様子は、液体の中に沈んでいた物体を引き上げているように見えるほど、スピーディである。
4月には、3DCADで知られるAudodesk社がCarbon3D社に1000万ドルを投資することを発表。Autodesk社は、Ember3Dという光造形方式の3Dプリンターをオープンソース方式で公開し業界標準を狙っている。2016年頃から、デザイン事務所やホビー用途で3Dプリンターが一挙に普及するシナリオも現実味を帯びてきた。

(文/山路達也)

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