Science News

低コスト・迅速に病原体を探知できる
スマートデバイス

2015.7.13

使い捨てのポリマー製チップを使って、血液中のHIVを探知する。

医療分野では、"Point-Of-Care"(POC)という概念が注目されるようになってきた。これは患者の身近で、医師が検査や処置を行うことを指す。現在は患者から採取した試料を検査機関に送ることが多いが、医師が現場で正確な判断を迅速に下せるようになれば、コストを下げられるだけでなく、患者の満足度も上げられる。
スタンフォード大学の医科大学院では、医療インフラの整っていない発展途上国でも使える使い捨ての低コストデバイスの開発を進めている
デバイスは数種類あり、その1つはHIVの感染を検査するためのもの。現在広く行われているHIV検査は感染初期段階の患者を判別できないという欠点があり、これを解決する手法が求められている。研究チームの開発したポリマー製のチップには電極が組み込まれており、ここにHIV-1型抗体を加えた患者の血液を垂らす。血液中にHIV-1ウイルスが存在する場合、ウイルスと抗体が結合してチップの導電率が変化する。これを読み出すことで、感染の有無を即座に診断できるというわけだ。1回の検査は2ドル程度で行えるという。
また、HIV患者のモニタリングに使うポリエステル製チップもある。こちらはCD4陽性T細胞(人の免疫系に必要不可欠な白血球)を探知する。チップに血液を1滴垂らすと、毛細管現象によってチップ上の微細な流路に血液が流れ込む。流路を覆っている抗体によってCD4陽性T細胞が捉えられるので、その量をCMOSセンサーで読み取るという仕掛けだ。
他にも、食中毒を起こす大腸菌を探知するためのセルロースチップもある。試料に該当するバクテリアが含まれていると、チップの赤いマークが青く変化する。その変化をスマートフォンのカメラで読み取ることで、どれくらいの大腸菌が試料に含まれているのかがわかる。
低コストの検査用スマートデバイスは、発展途上国だけでなく、先進国の医療費削減にも大きなインパクトを与えることになりそうだ。

(文/山路達也)

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