人間の脳のように振る舞う、
原子スケールのハードウェア
2015.7.21
人間の脳を模して、次世代のコンピュータを作ろうという研究が世界レベルで盛んになってきている。そうした研究でのキーワードの1つが「複雑系」だ。複雑系というのは、個々の何らかの要素が相互に関連し合うことで、全体の挙動が個々の要素とは違ったものになることを指す。例えば、人間の脳は神経細胞でできているが、その挙動は個々の神経細胞だけでは説明できない。脳以外にも、天候や経済などあらゆるところで複雑系は見られる。脳のような働きを持った複雑系のハードウェアを人工的に作るため、有機材料を使ったバイオコンピュータを作る研究グループもある。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のGimzewski研究室が発表したのは、無機材料で自己組織化を行うハードウェアだ。
研究チームは、半導体の製造で使われるリソグラフィ技術を使って、銅のパターンを基板上に作成。この銅のパターンの上に、銀のナノワイヤーでできた複雑なネットワークを構築した。ナノワイヤーの交点部分はスイッチになるが、単純なスイッチとは異なり、メモリスタとしての働きを示す。メモリスタというのは、過去に流れた電流に応じて抵抗が変化する素子のこと。人間の脳では経験によって神経細胞のつながり方が変化し、記憶や学習が行われるが、それと同様の現象を再現しているわけだ。
こうして作られたハードウェア、"Atomic Switch Network"(ASN)に信号を入力しその結果出力されるパターンを計測すると、脳のように常にAtomic Switch同士の接続がつなぎ変わることが観測された。研究チームによれば、ASNは金融市場の分析や、音声・画像認識、外界の変化に応じた自律制御といった用途に応用できる可能性があるという。