Science News

磁気と光の合わせ技で、ガンに立ち向かう

2015.7.27

磁性ナノ粒子と光増感剤を含むリポソームをマウスのガン腫瘍に注入する。レーザー照射によって光増感剤からは活性酸素が放出され、さらに磁場をかけることでナノ粒子が発熱。この2つの合わせ技でガン腫瘍を攻撃し、死滅させる。
© Riccardo Di Corato - laboratoire MSC (CNRS/Université Paris Diderot)

ガンの治療と言えば、外科手術、化学療法、放射線療法が代表的だ。
しかし、ナノテクノロジーや3Dプリンティング、遺伝子組み換え等々が発達してきたことで、これまでには考えられなかったさまざまな療法が実現しようとしている。例えば、ペンシルバニア大学では循環腫瘍細胞(CTC)と呼ばれる、特殊な血中のガン細胞を音波で分離する手法を開発した。また、薬剤を腫瘍まで正確に届ける、ドラッグデリバリーシステムも多くの研究機関で研究中だ。
パリ・ディドロ大学とピエール・マリー・キュリー大学の研究チームが開発したのは、温熱療法(ハイパーサーミア)と光線力学療法を「ナノレベル」で「同時」に行う手法だ。
温熱療法というのは、ガン腫瘍の温度を上げて、ガンを死滅させるというもの(ガン細胞は、正常な細胞に比べて熱に弱いため、周辺の正常な細胞にダメージはない)。また、光線力学療法は、体内に光増感剤を注入しレーザーを照射、光増感剤から出る活性酸素でガン細胞を攻撃するという手法だ。
研究チームは、リポソーム(細胞膜と同じ材料で作られた小さな気泡)の内部を酸化鉄でできた磁性ナノ粒子で満たし、さらにリポソームの膜に光増感剤を組み込んだ。このリポソームをマウスのガン腫瘍に直接注入し、外側から磁界を与えるとリボソーム内の磁性ナノ粒子が発熱。さらにレーザーを照射することで、光増感剤からは活性酸素も放出される。
マウスを使った実験では、体外の人工環境では完全にガン細胞を死滅、体内でも固形の腫瘍が消滅することが確認できた。今後研究チームでは、磁性ナノ粒子を外部から磁石を使って誘導し、より正確に腫瘍まで届ける手法を開発していくという。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.