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ネズミの脳を、無線でリモートコントール

2015.9.7

髪の毛の1/10ほどのデバイスを使うことで、ニューロンの働きをリモートコントロールできる。Courtesy of Jeong lab, University of Colorado Boulder.

動物が何らかの行動を取っている時、脳のどの部分が働いているのだろうか?これを調べるため現在行われている手法は、チューブで脳に薬剤を注入する方法や、光ファイバーケーブルで脳内の神経細胞に光刺激を与える方法だ。いずれも観察する際に動物の自然な動きを制限してしまう欠点がある。
こうした問題を解決するために、ワシントン大学医学部とイリノイ大学のチームが開発したのは、微小流体光学という技術を用いたインプラントデバイスだ。デバイスは柔軟な素材でできており、厚さ80マイクロメートル、幅500マイクロメートル。厚みは人間の髪の1/10程度で、小型のバッテリーで動作し、リモートコントロールが可能だ。また、デバイス内には4種類までの薬剤を格納できるほか、4つの超小型LEDを搭載している。
研究チームは、ネズミの脳内に外科手術でこのデバイスを設置、各種の実験を実施した。
1つの実験で、モルヒネに似た成分の薬剤を脳のモチベーションや依存症に関連する領域(腹側被蓋領域=ventral tegmental area:VTA)に注入すると、マウスは円を描いて歩くようになった。
また、VTAの神経細胞が光に反応するよう、遺伝子処理を行ったマウスを生成。デバイスのLEDを光らせ、特定領域の神経細胞を刺激したところ、マウスはケージ内の片側に留まるようになった。さらに、デバイスからニューロン間の通信を阻害する薬剤を放出したところ、ケージの片側だけに留まるという行動はなくなった。
いずれの実験も、リモートコントロール信号送信用のアンテナから90cm程度離れた場所に、マウスを置いて行われた。動物の行動を制限することなく、自然に近い状態で実験が行えるようになったことの意義は大きい。この技術は、鬱や依存症といった神経性障害の治療に役立つと期待されている。
研究チームはインプラントデバイスの詳細な製造方法を公開しており、クラウドソーシングによって研究を進めていきたいという。

(文/山路達也)

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