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バケツ1杯分の水を調べれば、住んでいる
魚の種類がわかる

2015.9.28

バケツ1杯分の水を分析するだけで、その水域に住んでいる魚の種類や量が判明する。
"Fish, a lot of fish (2152054969)" by Michal Osmenda from Brussels, Belgium - Fish, a lot of fishUploaded by russavia. Licensed under CC BY-SA 2.0 via Wikimedia Commons -

海や川、湖にどんな魚が住んでいるのか調べるのは大変だ。実際に魚を釣り上げたり、ダイバーが潜水して魚の生態を調べなければならないため、膨大なコストや時間がかかるのだ。土木事業を行う前に行う環境アセスメントでも、生態系の調査がネックになってくる。
だが、千葉県立中央博物館、神戸大学、東京大学からなる研究チームが開発した手法を使うと、バケツ1杯分の水を調べるだけで、その水域に住んでいる魚の種類や量まで判別することができる。
この手法のキーとなるのが、「環境DNA」だ。水中に生息する魚からは、粘液や糞などとともに、その魚自身のDNAも放出されている。
以前は水中に放出されたDNAは濃度が極めて薄いため、ここから魚の種類を判別するのは難しいと考えられてきた。ところが近年、DNAの塩基配列を分析するシーケンサー(解析装置)の性能が飛躍的に向上し、数十万から数千万本の塩基配列を短時間で同時に分析できるようになってきた。
研究チームは、魚類に共通する塩基配列と、種類を特定するために必要な塩基配列を含むDNAの領域を探し出した。その領域を増幅し、シーケンサーで分析することで、大量のサンプルを同時並行して調べることができるようになった。水域からバケツ1杯の水を汲み、遠心分離機でDNAの抽出、シーケンサーの分析までを行うのに、合わせて4時間ほどで分析が可能。研究チームが沖縄美ら海水族館の4つの水槽水をサンプルに分析を行ったところ、水槽に飼育されている魚類の9割以上を検出できたという。
現在、研究チームが網羅している魚のDNAデータベースは5,000種類。全世界に魚類は30,000種類以上生息していると言われており、データベースの充実が今後の課題となる。データベースが充実してくれば、世界中の魚類の生息状況をほぼリアルタイムに把握することも不可能ではないだろう。
魚類の生態研究や、漁業や環境保護、さらには未知の魚類の発見など、広い分野に大きなインパクトを与えることになりそうだ。

(文/山路達也)

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