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3Dプリンターが、立体コピー機にまた一歩近づく

2015.10.5

3Dスキャナー機能を搭載し、10種類の材料を同時に扱える3Dプリンター「MultiFab」。© Computational Fabrication Group (CFG)

2012年に出版された『MAKERS』(クリス・アンダーソン著)をきっかけに、3Dプリンターに対する世間の関心は一気に高まった。製造業における試作品や鋳型の作成といった用途ではある程度定着した3Dプリンターだが、一般消費者向けについては「幻滅期」にあると米国の調査会社Gartnerは指摘(http://www.gartner.com/newsroom/id/3114217)している。安価な3Dプリンターは、FDMと呼ばれる樹脂を押し出すタイプの製品が多く、ユーザーが期待していた精度にはほど遠かったのが1つの原因だろう。また、最近では光硬化樹脂を使う、低価格の一般消費者向け製品も各社から販売されているが、こちらは使用できる素材の種類が限られる。
だが、幻滅期にあるとはいえ、3Dプリンターの進歩は着実に続いている。MIT CSAILが発表した「MultiFab」システムは、いわば「立体コピー機」を目指す3Dプリンターだ。
MultiFabの特徴は、大きく分けて2つ。
1つは、3Dスキャン機能を搭載していること。MultiFabはインクジェット技術によって液状の材料を出力して1層(レイヤー)ずつ重ねていくのだが、出力するごとに3Dスキャニングを行い、元データとの誤差を検知、自動的に出力の誤差を修正していく。3Dスキャンの自動修正により、解像度は40μm(人間の髪の毛の半分程度の細さ)を実現している。
3Dスキャンは誤差修正のほか、対象物の取り込みにも使える。一般的なスキャナーのように形状データを取り込むだけでなく、スマホをMultiFabにセットしたら、そのスマホの形状にフィットするケースを直接出力するといったことも可能だ。
2つ目の特徴としては、マルチマテリアルが挙げられる。複数の材料を使える3Dプリンターはハイエンド向けには存在するが、材料の種類はせいぜい3種類で、製品価格も数百万円程度とかなり高価だ。MultiFabは、一度の出力で10種類の材料を同時に使用可能。微細な光硬化樹脂の液滴を混合し、インクジェットのプリントヘッドに送り込んで射出する仕組みだ。しかも研究チームは7,000ドルでMlutiFabを制作したという。
複数の材料を同時に扱えるため、複雑な可動機構を備えたメカやレンズ付きの装置も一度の出力で作成できる。IoTブームでハードウェアスタートアップ企業が活気づいているが、MultiFabはそのブームをさらに加速することになりそうだ。

(文/山路達也)

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