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音響トラクタービームで、物体を浮上・移動させる

2015.12.7

64個の小さなスピーカーの出力を細かく調整することで、音の力場(りきば)を作り、物体を浮揚させる。 Copyright © 2015, University of Sussex

トラクタービーム(物体を引き寄せる光線)を照射すると、物体が浮き上がり、自在に動かせる———。まるでSFのような技術を、サセックス大学の研究チームが開発した
彼らが使っているのは、音波だ。実をいえば、音波を使って物体を浮揚させようという研究は、すでにさまざまな研究チームが行っている。ただし、これまでの音波を使った物体浮揚は、物体の周囲をスピーカーで囲わなければならず、応用範囲がごく限られていた。
サセックス大学の研究チームは、64個の小さなスピーカーを配列させたデバイスを開発(スピーカーのパワーは家庭用オーディオスピーカーと比べて小さい9W)。直径4ミリメートルのビーズ玉を空中に浮かせることに成功した。物体をその場で静止させたり、移動させたり、あるいは回転させることも可能だ。
このデバイスでは、スピーカーの出力を個別に細かく調整することで、3パターンの力場を生み出している。1つは、ピンセットのように物体を挟み込む力場。2つ目は、渦を作り出して、その中心に物体を捉える力場。3つ目は、高密度の音のカゴを作って、物体をその中に閉じ込める力場。これらの力場を組み合わせることで、物体の静止、移動、回転を可能にしている。デバイスを傾けても、物体がそのまま追従してくる様子は、まるで魔法のようだ。
研究チームでは、現在より大きなサイズのデバイスと、小さなデバイスの設計も行っている。大きいデバイスは、サッカーボール大の物体を高さ10メートルに浮かせるもの。また、小さいデバイスは、人体内部の粒子を操作することを想定している。
物体浮揚技術の応用範囲は幅広い。物理的な接触なしに微細部品を組み立てたり、薬剤を入れたカプセルを患部にまで届けるドラッグデリバリーシステムを実現できると期待されている。

(文/山路達也)

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