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磁気で電解液をコントロールするフロー電池

2015.12.14

磁性ナノ粒子を混合した電解液は、磁石を使って任意の方向に動かすことができる。 ©2015 American Chemical Society

太陽光発電や風力発電などの自然再生可能エネルギーは、天候によって出力が大きく変動するのが難点だ。送電網を安定させるには、生み出された電力を一時的にバッテリーに蓄電するなど、変動を抑える仕組みが必要になってくる。
送電網用の大規模な蓄電システムとして近年注目が集まっているのが、フロー電池である。フロー電池の基本的な仕組みは、陽極側と陰極側で種類の異なる溶液をポンプで循環させ、イオン交換膜を介して反応させるというもの。溶液に含まれるイオンの酸化/還元反応によって、蓄電/放電が行われる。すでにバナジウムを使ったフロー電池は実用化されており、より低コストの多硫化リチウムを使ったフロー電池も研究が進んでいる。
フロー電池の構造でコスト的なネックとなっているのが、電解液を循環させるポンプだ。ポンプを稼働させるためにエネルギーが無駄になり、電池の構造も複雑になる。
この問題を解決するために、スタンフォード大学Yi Cu教授らの研究チームが開発したのが、磁気を使って電解液を循環させる技術だ。
研究チームは、多硫化リチウムを含む陰極側の電解液に、磁気を帯びた酸化鉄のナノ粒子を混ぜ合わせた。電解液中の酸化鉄ナノ粒子は多硫化リチウムとしっかり結合し、コロイド(微粒子が液体中に分散している状態)を作る。磁場をかけることでこのコロイドを任意の方向に動かし、ポンプなしで電解液を循環させることに成功した。磁性ナノ粒子を加えた電解液を使うと、フロー電池の性能は大幅に向上し、例えば電池容量については126mAh/g(アンペアアワー毎グラム)から350mAh/gと約3倍に増えた。これは、多硫化リチウムが陽極側に移動してしまうシャトル効果という現象を、磁性ナノ粒子を使うことで抑えられることによるもの。また、研究チームによれば、磁性ナノ粒子を使って電解液をコントロールすることができるのは多硫化リチウムに限らないとのこと。ポータブル電子機器や輸送機関など、さまざまな分野の蓄電システムへの応用を計画しているという。

(文/山路達也)

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