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スイッチの切り替えで、水の沸騰を制御する

2015.12.21

金属表面にかける電圧の極性を切り替えるだけで、気泡の生成をコントロールできる。 Courtesy of the researchers at MIT.

水を加熱して、沸騰させる。誰でも毎日当たり前のように利用している自然現象だ。
だが水の沸騰は、今の世界を支えている極めて重要なプロセスでもある。液体から気体への急激な相変化で生じる圧力変化を利用して、発電所はタービンを回して発電を行う。原子力発電所も、核分裂で生じる熱でお湯を沸かし、タービンを回している。
ありふれた自然現象の沸騰だが、温度を変化させる以外の手段で、正確に制御することはかなり難しい。水の沸騰で気泡が生じたり、水蒸気から雨粒が作られたりする時は、核形成という現象が起こるが、この核形成のプロセスをコントロールすることができなかった。
高電圧と特殊な液体を使って沸騰を制御する技術も開発されてはいるが、この技術は消費電力が大きく高コストなので、産業用には使えない。
MITのEvelyn Wang教授らの研究チームが開発したのは、スイッチのオンオフだけで簡単に沸騰を制御する技術だ。
この技術では、液体が入った容器表面の親水性、撥水性が核形成の割合に影響を与えることを利用する。容器の表面が親水性だと核形成が起こりにくい、つまり気泡もできにくくなる。逆に撥水性だと、気泡ができやすくなる。
研究チームが使ったのは、界面活性剤を混ぜた水だ。界面活性剤の分子は電荷を持っており、容器の表面にかける電圧の極性を切り替えることで、引き寄せられたり、反発したりする。
金属容器にかける電圧を切り替えると、容器表面の親水性、撥水性が変化して、気泡ができたり、できなくなったりすることが確認できた。電圧の極性を変えると、気泡が生成される割合は10倍も違ってくるという。
気泡が生成される割合をコントロールすることで、熱伝導率も変化させることができる。研究チームによれば、この技術を応用することで、需要に応じて柔軟に給油出力(お湯を沸かす力)を変えられるボイラーなどを作れる可能性があるという。

(文/山路達也)

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