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光を使って情報を記憶する、超高速非揮発メモリ

2015.12.28

新しい光チップでは、光の導波路にGSTが使われている。波長多重技術によって多数のデータの読み書きを一度に行うことが可能だ。Credit: Image courtesy of University of Oxford

コンピュータの世界では、いつもメモリがプロセッサの足を引っ張ってきた。
ムーアの法則が示すように、トランジスタの集積率が高まることでプロセッサのスピードはますます速くなり、メモリ容量は増え続けている。ところが、メモリとプロセッサ間のデータ転送スピードは、プロセッサの進化にメモリが追いついていない。
現在のコンピュータはほぼすべてフォン・ノイマン型、つまりメモリからプログラムを読み込んで実行する仕組みであるため、どうしてもプロセッサとメモリの間でデータのやりとりが発生する。そこで、今のコンピュータはプロセッサに近いところには高速なメモリを使用し、その外側はやや高速でもう少し大容量のメモリ、さらに外側には高速ではないが低コストで大容量のメモリ、そしてその外側にはフラッシュメモリやハードディスク、という構成になっている。
メモリの読み書きを圧倒的に高速化するために、有望だと考えられているのが、光を使ったメモリだ。さまざまな研究機関が光子(フォトン)を使ってデータを記憶する光メモリを研究しているが、フォトンを安定させるのは難しく、またデータを保存のために電力を必要とする。
オックスフォード大学などの国際的な研究チームが開発した、データを永久保存できる非揮発性(電源を供給しなくても記憶を保持する性質)の光ベースメモリチップは、こうした課題を解決できるかもしれない。
従来のCDやDVDでは、データを記録するためにGST(Ge2Sb2Te5)という相変化物質が使われている。GSTは光や電気のパルスを当てることで、ガラスのようなアモルファス状態(非結晶な状態)になったり、金属のような結晶状態になったりするが、それぞれの状態によって光の反射率が違ってくる。CDやDVDではこの反射率の違いを利用して、データを読み書きする。
新しく開発された光メモリチップでは、光を伝える導波路にこのGSTを使っている。強弱のある光パルスを導波路に流すと、光の強度に応じてGSTの状態が変化し、これがデータの記録のメカニズムとなる。
GSTはすでにノウハウが蓄積された材料であり、低コストで製造可能だ。新しい光メモリが実用化されるのは意外に近いかもしれない。

(文/山路達也)

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