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逆浸透膜を超える、
低コスト・高効率の淡水化技術

2016.1.25

コンピュータで作成された、二硫化モリブデンシートの模式図。青いモリブデン原子を黄色の硫黄原子が挟んでおり、穴の部分ではモリブデンが露出している。Graphic courtesy of Mohammad Heiranian

日本では実感しづらいが、「水」は世界的に極めて貴重な資源だ。地球は14億立方キロメートルという膨大な水で覆われているがその97%は海水で、淡水は3%程度にしかすぎない。しかも淡水のほとんどは極地の氷などで、人間が実際に利用できる淡水は水全体の0.01%だと言われている。飲用だけでなく産業にも淡水は不可欠だが、発見途上国を中心に、十分な淡水資源を得られない地域が増えているのが現状だ。
そこで、海水から塩分などを取り除く淡水化技術が重要になってくる。石油を潤沢に使える産油国では海水を蒸留する多段フラッシュ法が使われているが、この方法はエネルギーを大量に使用する。これに対して、現在世界的に主流になりつつある逆浸透膜法は、細かい穴がたくさん開いた高分子の膜を使う。いってみれば、高圧を掛けて海水をろ過することで淡水にするわけだ。多段フラッシュよりエネルギー消費量の少ない逆浸透膜法だが、数十気圧の高圧を作り出すためにはやはり大きなエネルギーが必要。また不純物で目詰まりして膜が破損するといった欠点もあるため、新たな淡水化技術が求められている。
逆浸透膜に使われる高分子の膜は、表面のスキン層で0.1〜0.2マイクロメートル、強度を保つためのスポンジ層も合わせると50〜250マイクロメートルにもなり、分子レベルで見ると分厚い膜に水を通すために、圧力をかける大きなエネルギーを要する。ならば、これよりもはるかに薄く、強靱な膜があれば、エネルギーを浪費せずに塩分を除去できることになる。
イリノイ大学の研究チームが淡水化膜の素材として選んだのは、二硫化モリブデン(元素モリブデンの硫化物)の多孔シートだ。単原子のモリブデンの上下を硫黄で挟み込んだもので、ナノメートルサイズの穴が多数開いている。研究チームによれば、穴の部分で露出しているモリブデンは水を引き寄せる性質がある一方、硫黄には水を押しやる性質があるため、高い圧力をかけなくても大量の水を透過できるとのこと。同様の単原子層であるグラフェンと比較しても、二硫化モリブデンの淡水化能力は70%以上も上回っているという。
圧力をかけず、消費エネルギーを格段に減らせるこの方法は、エネルギー問題と、水資源問題を同時に解決できる可能性を秘めている。

(文/山路達也)

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