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1リットルの海水を調べれば、
魚の種類と量がピタリとわかる

2016.5.16

舞鶴湾では、環境DNAを分析してマアジの生物量を測定することに成功した。

ある種類の魚が、どのあたりにどれくらいいるのか。広大な海を泳ぎ回る魚の種類や量を把握するのは、大変に難しい。現在行われているのは、網で実際に魚を捕獲する、魚群探知機を使う、といった方法だが、これらの方法はいずれも手間やコストがかかり、魚群探知機では魚の種類の判別もできない。
こうした課題を解決すると期待されているのが、神戸大学、北海道大学、統計数理研究所などが協働で研究している「環境DNA」を使った計測手法だ。
環境DNAというのは、生物のDNAが水や空気、土などに溶け出したもの。2015年7月に、バケツ1杯程度の水を汲み、その中に含まれる環境DNAを分析することで、魚の種類を判別する技術を開発することに成功している。
ただし、従来の研究は、実験用の水槽や小さな池などで行われていた。環境DNAが広い範囲に拡散してしまう海洋で、同様の分析手法が有効かどうかは検証されていなかったのである。
そこで、研究チームは日本海に面する舞鶴湾(京都府)の47箇所で海水をそれぞれ1リットル程度採取し、その中に含まれている環境DNAの測定を行った。舞鶴湾は毎年6月にマアジが回遊で訪れることが知られている。
環境DNAを分析し、魚群探知機で測定したマアジの生物量と比較したところ、環境DNAの濃度は生物量を反映していることがわかった。
つまり、1リットル程度の海水を採取して分析すれば、そこにどのような種類の魚がどれだけいるのかが、わかるということだ。
特定の水域で、魚の種類や量が正確かつスピーディにわかれば、海洋調査の精度も上がるし、適切な漁獲規制も行えるようになる。どの魚をどの程度獲ってもいいのか、あるいは獲るべきではないのか。環境DNAの分析手法の進化は、私たちの食生活とも密接に結びついてくるのだ。

(文/山路達也)

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