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超小型ロボットの群れが、産業廃水を浄化する

2016.7.11

チューブ状のマイクロボットが廃水中の鉛を回収する。

マイクロロボット、マイクロボット、ナノロボット、ナノボットなどと呼ばれる、超小型ロボットの実用化が目前に迫ってきている。
医療の分野では、マイクロボットに薬剤を封入し患部にたどり着いた時点で放出させる、ドラッグデリバリーシステムが代表的な応用例だ。
産業分野にマイクロボットを応用しようという動きも高まっており、その1つが環境対策。流出した原油などをマイクロボットで回収しようという研究も活発になっている。
スペイン アルカラ大学のDiana Vilela博士、マックスプランク研究所のSamuel Sánchez博士らが開発したのは、産業廃水から重金属の鉛を取り除くマイクロボット。バッテリーの製造工場や鉱山などからの産業廃水には、鉛やヒ素、水銀、カドミウムなど人体に有害な重金属が多く含まれている。マイクロボットで重金属をたんに除去するだけでなく、リサイクルできるようにするのがこの研究の狙いだ。
研究チームが開発したマイクロボットは、人間の髪の毛の幅よりも小さなチューブ状で、3層構造になっている。外側の層は酸化グラフェンで、廃水中の鉛を吸着する。真ん中の層はニッケル。ニッケルは強磁性のため、外部の磁場によってマイクロボットをコントロールできる。
内部の層はプラチナ。面白いことに、このプラチナの層はマイクロボットを推進するために使われる。廃水に過酸化水素を添加し、プラチナ層が過酸化水素を水と酸素に分解。その時に生じる酸素の細かい泡を放出することで、マイクロボットが前に推進できる仕組みだ。
廃水中の鉛を十分に吸着させたら、磁場を使ってマイクロボットを回収。酸性の溶液にマイクロボットを浸せば、吸着した鉛を除去することができ、マイクロボット自体も再利用できる。
今後、研究チームは、鉛以外の重金属についても回収できるようにする予定だという。

(文/山路達也)

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