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ビルの窓からディスプレイまで、高速調光ガラスの可能性

2016.10.3

電圧を加えることで、フィルムが透明から黒へと変化した(左上から右下へ)。変化したあとの状態を維持するために電力を消費しないため、電子機器用ディスプレイへの応用も検討されている。

光の強さに応じて色が変化する光発色性物質は、サングラスなどに応用されている。ただし、こうした光発色性物質の色変化は、それほど大きなものではない。色がやや濃くなる程度で、変化のスピードもそれほど速くない。
MITの研究チームが開発したのは、従来の調光ガラスの欠点をすべて解決できる新素材だ。この新素材には、電圧に応じて色や透明度が変化するエレクトロクロミックという物質が使われている。実を言えば、エレクトロクロミック物質自体はすでに実用化されている。例えば、一部の旅客機の窓に使われているのだが、光発色性物質と同じように色変化も小さく、スピードも遅いため、普及していないのが現状だ。
従来のエレクトロクロミック物質では、物質全体に負の電荷をかけ、そこに陽イオンを移動させることで色変化を実現していた。イオンの移動速度が遅いため、色変化に時間がかかっていたのである。
MITの研究チームは、MOF(有機金属フレームワーク)というスポンジ状の物質を使い、電子とイオン両方の移動速度を高めることで、色変化をスピードアップ。さらに、複数の化合物を組み合わせることで、完全な透明からほとんど不透明な黒まで変化するフィルムを作ることに成功した。
色変化の幅とスピードに加え、新素材にはもう1つ大きな特長がある。それは、消費エネルギーの少なさだ。色や透明度を変化させる際に電圧をかける必要はあるが、変化した後はエネルギーを消費することなく状態を維持できる。
こうした特徴を活かすことで、ビル用の調光ガラスのほか、電子端末用のディスプレイも作れると期待されている。現在、低消費電力のディスプレイとしては電子インクがあるが、エレクトロクロミック物質は電子インクよりも高速に動作する。
現在研究チームでは、投資家からの出資を募るため、1インチ四方のデモンストレーション用デバイスを開発中だ。

(文/山路達也)

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