Science News

鞭毛(べんもう)を備えた医療用マイクロロボット

2016.11.14

ハイドロジェルと磁性ナノ粒子で作られたマイクロロボット。電磁場を与えると、生きている微生物のように泳ぎ回る。

医療分野で注目されている新技術が、マイクロロボット。すでに消化器官の内部を撮影できるカプセル型の内視鏡は実用化されているが、もっと微細で柔軟なマイクロロボットができれば、血管の中に入り込んで血栓を取り除いたり、ドラッグデリバリーシステムを実現したりできると考えられている。
EPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)とETHZ(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)の研究チームが開発したのは、微生物のように動くマイクロロボットだ。このマイクロロボットは、生体適合性のハイドロジェルと磁性ナノ粒子で構成されている。
まず、ハイドロジェルの内部にナノ粒子を配置、ジェルを凝固させる。このジェルを水に浸けると、ナノ粒子の配置に応じてジェルが変形し、マイクロロボットができあがる。
電磁場を加えると、マイクロロボットは形状に応じた動き方で、水中を泳ぎ回る。さらに、レーザーを照射して熱することで、あとから形状を変化させることも可能だ。
マイクロロボットのバリエーションの1つとして、研究チームは、眠り病を引き起こすトリパノソーマという原虫を模したものを作成した。トリパノソーマは鞭毛を使って液体中を泳ぎ、人間の血管に侵入すると鞭毛を隠す。作成されたマイクロロボットも同様に鞭毛で泳ぐことができ、レーザーの熱によって形状を変化させて、鞭毛を隠すことができる。
人間が持つ防御システムをかいくぐることのできるマイクロロボットを作れれば、効率的なドラッグデリバリーなど、さまざまな治療に応用できるわけだ。
今後、研究チームではマイクロロボットが人体に悪影響を与えないかを検証し、実用化に向けて開発を進めていくという。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.