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透視能力者のように、
本を開かず中身を読めるスキャナ

2016.12.12

9枚の紙の束に書かれた文字を読み取ることに成功。将来は、本を1冊丸ごとスキャンすることも可能になる?

アナログな紙の本をデジタルなデータに変換する作業が世界中の図書館や出版社で行われている。最初の頃は、本を裁断してからスキャナにかける必要があったが、自動ページめくりの機能が付いた「ScanRobot」などのブックスキャナが登場したことで、元の本を破壊することなく、効率的なデジタル化作業ができるようになった。
スキャナの進歩はさらに続く。MITのBarmak Heshmat博士らの研究チームが発表したのはなんと本を開かずに、中身を読み取るという技術だ。1枚に1つの文字が印刷された紙の束で実験を行ったところ、上から9枚の紙については文字を正確に読み取ることができた。
このシステムでは、テラヘルツ波(周波数が1THz前後の電磁波)が使われている。紙の束に対してテラヘルツ波を照射し、反射して返ってくるまでの時間差を測定することで、紙までの距離を算出する。インクと紙、また紙と紙の隙間などによって反射の状況が変わってくるため、これを元にインクの形を読み取る。紙の場合、前後のページが透けて文字が重なって見えたりすることがあるが、これは解析用のアルゴリズムを開発して、対応したという。
現在のところ、20枚までの距離は正確に推定することができるが、9枚を超えると反射の際のノイズが増えるため、インクを読み取ることが難しくなる。研究チームでは、精度の向上と検出用電磁波の出力強化に取り組んでおり、近い将来1冊丸ごとの本を読み取ることも不可能ではなくなるかもしれない。
このスキャナ技術は、触れると破損してしまうような古書の研究に大いに役立ちそうだ。また、研究チームは、機械や医薬品のコーティングなど、薄膜が何層にも重なったモノを分析するのに使える可能性があるとしている。

(文/山路達也)

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