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星形構造のポリマー素材で、耐性菌と戦う

2016.12.26

星形ペプチドポリマーは、耐性菌の細胞壁(左)を引き裂いて破壊(右)する。抗生物質に変わる、新たな武器となるか?

感染病の治療に取り組む医療関係者を悩ませているのが「スーパーバグ」、抗生物質に対する抵抗力を持った耐性菌だ。スーパーバグによる感染症は世界中で拡大しており、大きな脅威になっている。代表的な耐性菌としては、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や、淋病を引き起こすペニシリナーゼ産生淋菌、ペニシリン耐性肺炎球菌などがある。2050年までに、スーパーバグによって年間1000万人の死者が出るという予想もされている。
こうしたスーパーバグの驚異に対抗する希望の「星」が、メルボルン工科大学の開発した星形のポリマーだ。これは、アミノ酸が複数繋がったペプチドが短い鎖状になったもので、ペプチドポリマーと呼ばれている。
研究チームは、グラム陰性菌(抗生物質に対する高い耐性を獲得しやすい細菌)に対して星形構造のペプチドポリマーを使用し、死滅させることに成功。その一方で、細菌の宿主に対する毒性がないことも確認された。
さらに、スーパーバグはペプチドポリマーに対して、耐性を示さないこともわかってきた。一般的な抗生物質は、細菌が増殖するために使う特定の代謝経路を攻撃し、細菌を死滅させる。これに対し、星形ペプチドポリマーは複数の経路に作用して細菌を死滅させるのだという。研究チームは、星形ペプチドポリマーには細菌の細胞壁を引き裂く作用があり、一般的な抗生物質よりも強力だと考えている。
1929年、アレクサンダー・フレミングが世界初の抗生物質ペニシリンを発見してから、1世紀近くが経とうとしている。人間と細菌の戦いは、新しいステージに入ったと言えそうだ。

(文/山路達也)

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