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生殖器のガンを治療する精子ロボット

2017.6.5

精子に金属製のハーネスを装着し、磁石でガン細胞まで誘導する

超小型の機械、いわゆるマイクロマシンやナノマシンの研究開発が世界的に活発になってきた。医療分野だと、ナノマシンを人間の体内に注入して検査や治療などに用いることが検討されている。
中でも期待されているのが「精子ロボット」としての利用だ。精子ロボットとは、精子細胞を覆う超小型の金属製ハーネスである。磁場で人体の外側から動きをコントロールするようになっており、2016年1月にはMariana Medina-Sánchez博士らドイツの研究グループがシャーレ上で実際に操作できることを確認している。自力では卵子にたどり着けない不活発な精子を精子ロボットで補助することで、不妊治療に役立てられる可能性がある。
2017年4月には、同じ研究グループが精子ロボットの新しい応用を発表した。それは、女性の生殖器を対象としたドラッグデリバリーシステムだ。
実験では、雄牛の精子を金属製のハーネスへと誘導して装着し、精子ロボットを作成。ハーネスには、抗ガン剤のドキソルビシンが搭載されている。
ハーネスは鉄でできているため、磁石で動きをコントロールできる。研究チームは、HeLa細胞(ヒトの子宮ガン由来の細胞)に精子ロボットを誘導。精子ロボットはガン細胞に衝突して内部に侵入し、抗ガン剤が放出。ガン細胞を効果的に死滅させることが確認できた。
金属製ハーネスを装着した精子は移動スピードが43%も遅くなるといった問題や、人間の治療では誰の精子を用いるかといった倫理的な問題もあるが、抗ガン剤をピンポイントでガン細胞に投与できた意義は大きい。

(文/山路達也)

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