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人間とウイルス・細菌のハイブリッド分子で
耐性菌を攻撃

2017.6.19

ヒトの抗体とウイルスから作られたハイブリッド分子は、耐性菌に対する強力な武器になるかもしれない。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を始めとして、抗生物質に対する耐性を持った細菌は、人類にとって大きな脅威になりつつある。
こうした耐性菌に対する新たな武器が見つかったかもしれない。ヒントになったのは、ウイルスだ。
細菌に感染するウイルスは、細菌の細胞表面に存在する特定の炭水化物分子を補足し結合する能力を備えている。ウイルスが炭水化物と結合するために用いられるのが、リジンという分子だ。一方、人間の免疫機構は、病原体のタンパク質と結びつく抗体を作り出すが、標的が炭水化物分子の場合は補足することができない。
ロックフェラー大学のVincent A. Fischetti博士らの研究チームは、リジンと人間の抗体の構造に類似している点があることに着目。炭水化物に結合するリジンとヒトの抗体を組み合わせた。さらに、細菌は増殖する際に炭水化物と結合・切断する酵素を産生するが、研究チームはこの酵素とヒト抗体も組み合わせた。
研究チームはこの物質を「リジボディ」と名付け、ウイルス由来のもの2種類と細菌由来のもの1種類を作成した。
薬剤耐性を持ったブドウ球菌表面の炭水化物にリジボディを結合させて免疫細胞を誘導したところ、免疫細胞がブドウ球菌を破壊することが確認できた。また、リジボディを使った実験では、MRSAに感染したマウスの生存率が大幅に改善され、げっ歯類の重度腎臓感染症も防ぐことができた。
研究チームによれば、リジン以外の分子とヒト抗体を組み合わせることで、ウイルスや細菌、寄生虫などさまざまな病原体に対抗できるハイブリッド抗体を作り出せる可能性があるという。

(文/山路達也)

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