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夢の分子カーボンナノベルトの実現で、
宇宙エレベータも夢ではなくなる?

2017.7.3

カーボンナノチューブ
筒状のカーボンナノベルトの合成に成功したことで、カーボンナノチューブ大量生産への道が開けた。

炭素原子がチューブ上に連なったカーボンナノチューブは、あらゆる産業分野から注目されている機能性材料だ。強度は鉄の20倍、熱や電気の伝導率が高く、おまけにとても軽い。カーボンナノチューブを大量生産することができれば、私達の社会が大きく変わると言われている。例えば、その1つが宇宙エレベータだ。地球の表面から静止軌道まで伸びる宇宙エレベータを作ることができれば、宇宙空間への物資輸送コストを格段に下げられる。SF的な空想だった宇宙エレベータだが、極めて軽量強靱なカーボンナノチューブが登場したことで現実味を帯びてきた。
ところが、カーボンナノチューブの大量生産には大きな課題がある。一口にカーボンナノチューブといってもさまざまな構造が存在し、構造が異なると性質も変わってくる。特定の構造を持ったカーボンナノチューブだけを合成することが難しいのだ。
この問題を解決するカギとなるのが、「カーボンナノベルト」である。
カーボンナノベルトは炭素原子からなる環状の物質。カーボンナノベルトで正確な部分構造のテンプレートを作り、それに炭素原子を結合させて伸ばしていけば、特定の構造を持ったカーボンナノチューブを合成できると考えられた。簡単そうに聞こえるかもしれないが、カーボンナノベルトは60年前に提唱されたものの、誰も合成には成功していなかったのである。
名古屋大学の伊丹健一郎教授、瀬川泰知特任准教授、ポビー・ギョム博士研究員らの研究チームは、石油成分であるパラキシレンを使い、11段階の化学反応を経ることでカーボンナノベルトを合成することに世界で初めて成功した。
次のステップは、テンプレートとなるカーボンナノベルトを用いて、カーボンナノチューブの単一構造を合成すること。カーボンナノチューブの大量生産ができれば、いきなり宇宙エレベータは無理にしても、高性能の半導体や曲げられるディスプレイ、軽くて強靱な新素材など、巨大な産業が生まれることになりそうだ。

(文/山路達也)

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