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メッセージを振動に変換し、皮膚で「読む」

2018.7.23

言葉を振動の組み合わせに変換して伝達する、Facebookのデバイス。
by SIGCHI

誰もがスマートフォンとSNSでコミュニケーションを使う今、膨大な量のテキストがネットを行き交っている。目でテキストを読む、あるいは読み上げ機能で耳からテキストを聞く。私たちは視覚もしくは聴覚経由でテキストを認識しているわけだが、別の感覚を使ったテキストを認識に取り組んでいる研究者達がいる。その感覚とは、触覚だ。
目と耳の両方が聞こえない人は、相手の顔に手を当てて、振動や空気の動きから言葉を読み取る「タドマ法」を使う。Facebookの研究者はタドマ法と点字にヒントを得て、腕で言葉を感じるデバイスを開発している。
2017年4月にFacebookが発表したのは、16個のアクチュエーターを内蔵したデバイスで、これを被験者の腕に巻き付ける。デバイスに接続されたタブレットから言葉を選択すると、その言葉が振動の組み合わせに分解され、被験者に伝わる仕組みだ。テキストを点字に変換して指で「読む」触覚ディスプレイはすでに存在しているが、Facebookのデバイスはアルファベットを1文字ずつ振動に変換しているのではない。被験者は振動の組み合わせを1つの言葉として認識しているのがポイントだ。
2018年4月の発表によれば、被験者は100分間のトレーニング後、100個の単語を90%の確率で認識できるようになったという。
この研究はまだ開発途上であり、解決しなければならない課題はまだたくさんある。血圧計のようなデバイスを腕に巻く必要があったり、長時間のトレーニングを受ける必要があるため、そのまま一般消費者向けに製品化できるわけではないだろう。
しかし、デバイスの小型化が実現できれば、視覚・聴覚障害者のコミュニケーション環境が向上するのは間違いない。文字単位でなく単語単位でテキストを認識できるようになれば、コミュニケーション速度は格段に上がるだろう。健常者も、スマートフォンやスマートウォッチの画面を見ることなく、複雑な情報を受け取ることができるようになれば、視覚への負担はずいぶん減ることになりそうだ。

(文/山路達也)

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